青き春

□5限は受けない
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「藤堂くん、ちょっといい?」


って、昼休み。
可愛い女の子に呼び出された。
ああ何だか久しぶりだなあこんなの。
と思いながらついて行ったら人通りの少ない特別教室の棟に入っていった。
それから廊下で好きですって言われる。
俺は少し考える振りして、


「ゴメンね、好きな子いるんだ」


とか適当に言って、お断りした。




馴れた嘘が憎い







「誰だ、好きな子って」


女の子がいなくなって一人になったかと思えば、そんな声がした。
振り向くと、斎藤が階段から降りてきていた。


「盗み聞きは行儀が悪いよ」

「盗むまでもなく聞こえた」


何でこんなとこにいるんだよ。
面倒なことになったなあと溜め息をひとつ。
自分だってこういうことはあるくせに大概は棚に上げて攻めてくるんだ。


「誰だ、好きな子って」


斎藤は口端を上げていた。
馬鹿にしてんのか。


「あんたのことだよ」

「お前の中で俺は"子"と言えるほど可愛らしいんだな」


時々、というかほとんど毎日?
とにかく俺は、どうしてこんな奴と付き合っているんだろうかと思う。
何度か女の子に告白されたけど、俺はそれを当たり前のように断ってきた。
こいつと付き合っているからだ。
考えてみたらおかしい話だ。
俺にとっても女の子にとっても俺がこいつと付き合うよりも俺と女の子が付き合う方がいい。
いいに決まってるのに。

いつの間に女の子の告白を、こいつを理由に断ることが当たり前になったのか。


「馬鹿が柄にもなく頭使うとパンクするぞ」

「腹立つなあ」

「気に障ったか?」


ほら。
これ、ほんとに無意識?
天然で人を苛立たせるんです参ったね。


…お腹空いた。

教室に戻ろうと踵を返す。
そしたら腕を掴まれた。


「どこへ行く」

「教室。飯の途中だもん」

「飯の途中に席を立つ方が余っ程行儀が悪い」


さっきの言葉を引きずっているのだろうか。
こいつも相当子供じみてる。


「じゃあ飯の途中に呼び出したさっきの子が一番行儀が悪いってことで、」


呆れを含んだのが伝わってくれただろうか。
腕を解いて俺は足早に、


「待て」

「何で。昼休み終わる」


る、を言い終わる前にキスされた。
腰を抱かれて、もう片方の指が耳の後ろをなぞり、後頭部を固定。
絡まる舌が熱い。

何、何だよ。

戸惑っていたら唇が離れて、斎藤は俺の首筋に顔を埋めた。
ぎゅっと、腰を両手で引き寄せられる。


「どこにも行くな」


ぼそりと吐かれた小さな声。
俺の心臓が変に脈打つ。

いつもみたいに突き放したいけど、何でか無理だった。
いつもの我が儘なはずなのに、
あり得ないとは分かっているけどこのままだと斎藤は、泣いてしまうんじゃないかと思ったんだ。


「俺さ、お前と付き合ってるから別に、他の子に眩んだりしないよ」

「…当たり前だ」

「だからさ、どこにも行かないから」

「………」




分かった、なんとなく。
斎藤を抱きしめながら、俺は理解した。
きっとこういうギャップに俺は弱いんだ。
だからこいつから離れらんないし、何かもうそういう斎藤を独り占めしたくなったりして。

無意識、なのかなあ。
天然で俺を落としてくれたよ参ったね。










これは斎平であると言い切る。


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