青き春

□つまりは依存。
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朝、窓の桟に立つ男を見た。
色素の薄い髪が風に揺れる。
死にたいのだろうか。
傍観に回ろうと思ったが男が振り向く。
見知った顔と確認して、何となく納得。

何故ならそいつは、


「斎藤っ!」


藤堂平助だったからだ。





空想ダイブ






「俺は飛べる気がするんだ。あ、いや、別に頭がおかしくなったわけじゃないよ。」


いいや、十分おかしくなってるぞ。
どうやらこいつは三連休の間、何かしらに脳を感化されてしまったらしい。
可哀想な話だがかなり重症らしく自覚症状もない。

近づいてみると藤堂の匂いがした。
4階だ。
落ちれば死んでしまう。


「分かってるよ。飛べはしないこと。でもね、飛べる気はするんだ。絶対に」


弾んだ声色。
こいつは今、常人が体験しない生死の淵をへらへらと歩いている。

目の前の細いふくらはぎを掴むと、小さな悲鳴を上げ、均衡を崩した体が窓の外へ。
俺は手を離した。
藤堂はアスファルトに真っ逆さま。
灰色のそれが染まる。
ぐちゃり、赤。




「死っていうのは、あっという間だと思う」


高くもないが低くもない、凛と芯を持つ藤堂の声。
俺は先ほどの変な想像を打ち消した。
俺は、不意にそれがものすごく嫌だなあと思った。


「藤堂」

「んー?…うわっ!」


左腕を掴んで強く引き寄せる。
落ちてきた体を、抱きしめた。
藤堂の匂いがした。


「び、び、びっくり、した」

「ああ、けど俺はまだお前を失いたくない」

「さい、と…」


藤堂が腕の中にいることで、ようやく安心、というか、落ち着いた自分がいた。
俺はいつの間に、こいつに感化されていたのだろう。

首に回る手が、どうしようもなく愛おしい。










斎藤さん別人だ。

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