青き春

□まだ何も
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茶を飲む途中で肩に重みがかかった。
湯飲みを盆に置いて、斎藤は息をつく。

「くっつくな」

ふわりと、甘い匂いがした。

藤堂は不満そうに唸って余計に体重を預けてきた。
こういう子供っぽさはどうにかならないか。

「人恋しいんだよ」
「抜かすな」

大体、どうして束の間の休息でさえこんな面倒な奴と一緒にいなければならない。

斎藤は心でため息をついた。
それはもう、心底うんざりという感じ。
肩に凭れる男に言いしれない不快を与えられながらどうしたものかと考えた。


言ってしまえば嫌いなのだ。
同い年とは思えないくらい落ち着きがない。
自分と比べてどうとか、そういうのではなくて。


考えるのも億劫で、いい加減耐えきれなくなってその場を立とうとすれば、袖を引かれた。
眉を寄せて、俺を見ている。

「何だ」

「俺のこと嫌い?」



ある意味衝撃的であった。
しかしそれも俺の嫌悪を沸かす。

「ああ、」

口を滑った低い声は、藤堂の手を袖から離した。
藤堂は一瞬だけ、唇を噛んで泣きそうな顔をしたが、それだけだった。

「そっか、ごめん」




ごめん。
こいつが言うと重みがない。
いつもの言葉だからだ。

俯く藤堂。
俺はその場を去った。





苛立つ。
冷たい廊下を踏みしめながら唇を噛んだ。

あいつといると疲れる。
普段の調子でいられないからだ。

無意識に苛立つ。



気づけば門を抜けていた。
しばらく立ち尽くした後、足は自然と動いた。

仕方ない、骨董屋にでも。

行き先を捉えた足取りは軽い。
最近の非番は特に面白いことも何もなく、無駄に過ごしていた気がする。
久々の骨董屋だ。
新しい品が入っているといい。

そんな、高揚する気持ちを抑え、八木邸の塀の終わりを抜けるときに、あいつの匂いがした。
斎藤は知っていた。
藤堂が花をいじるのを好んでいるということ。


何故だ。
何処にいても、あいつがいる。




名前も知らない白い花は、俺をまた苛立たせた。







嫌い、なんて、嘘


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