青き春

□やはり、甘い
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かなりの時間を費やし、永倉を甘味処に連れ出すことに成功した。
しるこが食いたいというのはもちろん口実で(確かに一度は寄ってみたかった場所ではあるが)、
平助はただ相談したいことがあったのだ。
昨晩はあまり眠れなかった。

餅を食いながら娘を目で追う男に僅かな呆れを滲ませ、「新さん」と切り出す。

「わたしは、自分の事が分からない」

永倉は茶をすする。
「てめェが分かんねえんじゃあ、俺にも分かりっこねえよなァ」

いつもの永倉だ。
全く、興味が無いというのか。
しるこをちびちびと口に運びながら、本当にこの人に言ってよいものかと思案した。
しかしそれでは昨晩中考えて出した答えをそれはまたくだらない理由で切り捨てることとなる。
さすがにやるせない。
だったらこんなにも寝不足でないというのだ。

藤堂は箸を置き、永倉を真正面から見据えた。


「わたしはどうやら、土方さんに惚れているらしい」


餅を飲み込んだ後で良かったと、永倉は思っていた。
必ず詰まらせる自信があった。
永倉はもう一度茶をすすり、のどを潤し、咳払いをした。

藤堂が土方を好いていることは誰が見ても分かるだろう。
その逆もだ。
あれほど人を甘えさせる土方は藤堂の前でしか見られない。
それほど二人の繋がりは深い。

しかしこんなにはっきりとその思いを聞いたのはこれが初めてだった。
藤堂自身も分かっていない。
今になって、あの人に対する思いの変化に気づき始めたという事だろうか。

至って真面目な面して自分に相談をかける藤堂を、永倉はずっと弟のように可愛がっていた。
相手が誰であるかなどはひとまず置いて、何だか寂しい気持ちにもなった。

だが、トシに、ねぇ。

最近隊内で男色が流行ってはいるが、きっとそれとは関係がないのだろうな。
恐らく平助がトシに惚れていたのはもうずっと昔の話で、本当に今更という感じなのだ。

湯呑みが空になり、永倉はようやく口を開いた。


「平助、そりゃあ俺には分からねぇ話だ」

藤堂はあからさまな拗ね方をした。
ちょうど、永倉を此処に誘うときにそうしたような。

「俺が思うに、お前はずっと前からあの人に惚れてんだもんよ。それがどういう感情かまでは分からねぇ。
家族愛なのか、それとも、そう、一人の、恋愛の対象としての愛なのか、」


永倉は茶を頼みなおした。
何だ、きちんと答えてくれるではないか。
藤堂は永倉の整った顔を眺め、しるこに目を落とした。

自分が、土方さんを他と違う目で見ていることは分かっていた。
だが、永倉も指摘したようにそれはもう随分と昔の話なのだ。
だけど今、昔とは明らかに違う。
今までとは、違う。


「気づかなかったんだ。本当にいつのまにか、だ。今ではもう、どうしようもない」


胸が苦しい。
彼と顔を合わせない日など、それこそ死にそうだ。

こうして口に出して相談していると、ますます思いが募っていく感じがした。
土方さんしか頭の中にいない。
もう彼以外を考えられない。

笑う永倉に顔が赤いぞ、と言われた藤堂は無性に恥ずかしくてしるこを手に取った。

京に上ると決めたときは、純粋に土方さんのことを慕っていた気がする。
彼の生き様に惚れて、一生ついて行こうと思ったんだ。

何だ。
自分でも分からぬうちに、落ちるものなんだな。


「恋というのは、難しい」

「んー…恋ね、」


手つかずだった藤堂の茶に手を伸ばし、永倉はため息をついた。
恋なんて、そんなかわいらしい響き、この仕事の中で耳にするとは思ってなかった。

新しいお茶を注文する藤堂を眺めた。
大人びたもんだが、やはりまだまだ餓鬼だ。
いつまでたっても、こいつは、


「しょーがねぇから今回は奢ってやらァ」


古き友であり、弟でもある藤堂の恋とやらが、どうにか上手くいけばいいと思った。








(新さんが?珍しい!)
(…前言撤回)

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