青き春

□斎藤さんのは針金製
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「触るな」


斎藤は小さな女の子(奴の胸のあたりに頭があった)の手を振り払った。
何があったかは知らないが、少し可哀想だ。
女の子は泣きながらその場を去った。
斎藤は俺を見て、それはまた堂々と無視をしてくれた。
背中を向けて、歩き出す。


「斎藤、待てよ!」


斎藤は俺のことが嫌いだ。たぶん。
言われたことがないから分からないだけであって、まあきっと当たってる。
俺も斎藤のことを好いてないから両思いっちゃ両思い。
両思ってない、のが合ってんのかな。

とか頭の悪い考えを巡らす。
斎藤は藤堂のこういった部分が嫌い。


「何の用だ」


用がなければ追いかけてはいけないらしい。
藤堂が何も言わずに付いてくるので斎藤はもういないものとした。
最近頭が痛い。
周りの影響で脳が退化しているのかもしれん。
だったらそれはただの悪夢だ。
大体、どうして俺がこんなバカ学校にいるのかが不思議でならない。
息をして動いている人間っぽいものは全て馬鹿。
教室にいると吐きたくなる。

袖を頻りに引かれて振り払うと腕を掴まれた。
何だ、この動物は。

「無視すんなって」

いかにも嫌って顔して腕を払われた。
コイツ、俺のことなんだと思ってんの。
しかし目は合ったままだ。
斎藤は一度目を細めて、また歩き出した。

「(藤堂、だったか。確かこいつは…)」

廊下の突き当たり。
左手側の階段を上がる。
曖昧な記憶を辿りながら、一番上にきた。

「開けろ」

「はあ?」

藤堂平助。
ピッキングなんて汚らしい特技を持つ男だ。

「何だよ。散々無視しといて口開けば命令かよ。どんな家で育ってんだ、あんた」

屋上の鍵はもう作ってある。
キーケースに繋げた針金の中からそいつを手に取り差し込む。
鍵が開いたことを確認すると「ご苦労」と俺を一度も見ないまま出て行った。

ちょっと、待てよ!


「うわっ」

強い風が扉を押す。
重くて動けないでいると、斎藤が開けてくれた。
礼を言う前に腕を掴まれる。

「なに…」

「細い」

「は?」

ぐっと力の入る手に、思わずキーケースを落とした。
骨の軋む音がしそうだ。


こんな腕で、生きていけるのか。斎藤はまじまじ、…と言うより寧ろありえないと言う風な目でその腕を眺める。
同じ男と思えない。



がりっ

斎藤は手を離した。
藤堂が涙で濡れた目で見ていた。


「人の話を聞け!」

どうやら、針金で引っかかれたらしい。
俺の手形が残った腕をさすり、小動物が威嚇している。


無意識とは、こういうことか。

違うのだ。
気づいたらそうなっていた。
良くも悪くも、手が出る。

何かと映るこの男の、
鍵を開ける腕を、扉を支える腕を、
無性に壊したくなった。


「すまない」



確かにこの学校は馬鹿しかいないが、どうやらちゃんとした玩具もあるようだ。

未だぎゃあぎゃあと喚く口を塞ぎ、震える腕を手に取った。







ドえす


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