novel -future-
□山猫の乱
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ドタバタ部屋の中を駆け回る音と、小さな溜め息。
「もうっ、また2人は喧嘩して!」
ミラポロスと蒼摩を割って入るのは、限界を迎えた龍峰だ。
「ニャー」
「だってミラポロスがさぁ」
2人がそれぞれの言い分を訴えると、呆れた目が蒼摩に向けられる。
「…蒼摩、『だって』じゃないでしょ」
「ミャウ」
ミラポロスは可愛らしい声を上げて、小さな身体を龍峰の脚に擦り寄せる。
「あっ、こらミラポロス!龍峰に甘えんの反則だろ!」
それを見た蒼摩は再びミラポロスに手を伸ばして龍峰から引き剥がそうとするも、身軽な子猫にあっさりかわされてしまう。
「はぁ、もう…」
蒼摩とミラポロスの喧嘩は龍峰の悩みの種だった。
喧嘩の主な原因は、龍峰の取り合い。
蒼摩と龍峰がいい雰囲気を醸していると、必ずと言うほどミラポロスが甘い鳴き声で龍峰の気を引く。
ついでに蒼摩の足に爪を立てて、龍峰を奪われたことに対する抗議も忘れない。
それが数度続くと、蒼摩の小さな堪忍袋の尾が切れて、ミラポロスを追い回すのだ。
蒼摩も本気で怒ってやっている訳ではないが、そのやり取りは既に習慣になってしまっていた。
「僕、買い物行ってくるよ。お願いだから仲良くしてて?」
「え、俺も行くよ。1人じゃ大変だろ」
ミラポロスとの追いかけっこを止めて龍峰を気遣う蒼摩。
しかし、龍峰は微笑みながら首を横に振った。
「せっかくの休みなんだから、蒼摩は家にいて。ミラポロスと大人しくしててくれれば僕は大丈夫だから」
「…そっか、分かったよ。気をつけてな」
秋から冬にかけての繁忙期。
確かに蒼摩にとっては、ゆっくりできる久々の休暇である。
さりげない龍峰の心遣いが嬉しかった。
「うん。じゃ、行ってきます」
「みゃううぅぅ」
「お前は俺とお留守番だよ」
争いをやめた2人が、玄関先で龍峰を見送る。
その姿は、幸せな家族の肖像のようだった。