novel -future-

□sweet honey moon
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青空の中、軽やかに鳴り響く鐘の音。


目の前には、純白のドレスに身を包んだ龍峰。


ヴェール越しの表情ははにかんで、長い睫毛を少し伏せている。



「龍峰…キレイだよ」



自分が結婚する時はドラマなんかで見るような安い言葉じゃなく気の利いた台詞を言いたいと思っていた。


だけど、俺の口から出たのは、ちっともオリジナリティのない、ありふれたお決まりの言葉。


それでも龍峰は心から幸せそうに微笑む。



「…父さんが僕たちのことを許してくれるなんて、夢みたい…」


「俺は、いつか分かってもらえると思ってたぜ」


「やっと、キミと…一緒になれるんだね」



いつの間にか俺達はステンドグラスの光に彩られた教会の中に立っていて、俺の手が2人を隔てるヴェールを持ち上げた。


龍峰の親父さんに関係を認めてもらえるまでキスはしない。


その誓いも、今日ここで終わり。


艶めく唇に視線が吸い込まれる。


ずっと待ち望んだ瞬間が、今ようやく訪れた。



「蒼摩…」


「龍峰…」



目を閉じた龍峰と俺の鼻が触れ合って、床に伸びた影が重なる。


吐息とともに、唇が触れあっ…



「…待て!」


 
柔らかそうな唇が触れる寸前で、教会の扉が勢いよく開けられる。


思わずそっちを向くと、見知らぬ美人が龍峰とは違う細身のドレスを着て息を切らしていた。



「貴様…っ!私を傷物にしておきながらよくも…!」


「え?ど、どちら様?」


「ソニアだ!マルス家に婿入りするという約束はどうなったのだ、蒼摩!」



言われてみれば、凛々しいその声は確かにソニアだ。



「む、婿入りだぁ?」



身に覚えはないが、ソニアの表情は鬼気迫っている。



「ひどい、蒼摩!僕だけじゃなく他の人にもプロポーズしたってこと?!」


「い、いやいや待て!これは何かの間違い…」



「その結婚待ったーぁ!」



逆光の扉に、複数の影。



「今度は何だ?!」



一番先に脚を踏み出したのは、長身、スタイル抜群の花嫁。



「小さい頃からずっと一緒で気付かなかったけど…、実は私、蒼摩が好きだったの!」


「ユナぁ?!」



確かに龍峰よりも先に知り合った昔なじみだけど、俺のことが好きな素振りなんて全くなかったぞ!



「わ、私も、蒼摩のお嫁さんになりたいの…。ダメ…?」


「あ、アリア…っ」



ユナの陰から現れた、龍峰とはまた違うタイプの儚さを持つアリアも俺を熱い目で見つめた。

 
そのアリアを押しのけるように、3人の力強い肉体が押し寄せた。



「蒼摩!オレとずっと一緒に戦ってくれるって言っただろ!結婚しよう!」


「うぇぇ、光牙?!」



いつも明るく前に突き進む、無二の親友だと思っていた光牙。



「お前も富士流忍者になれ。今嫁に来るなら、不束者でも目をつぶってやるぞ」


「栄斗!お前もか!ていうか何で上から目線なんだよ!」



事あるごとに俺をチクチクいじめる栄斗。


まさか俺に気があったとは…。



「蒼摩…!ボクは姉上を傷つけたお前を許さない!一生かけて償ってもらうぞ!」


「いや、エデンはおかしいだろ?!」



そして、俺とどういう接点があるんだか分からないエデン。


俺と結婚しろと言う理屈も全く意味が分からない。



しかもコイツらもユナたちと同じく、三者三様の純白のドレスを纏っている。


それなりにガタイのいい連中がレースやらフリルに彩られている様は、目を覆いたくなる光景だ。
 


「蒼摩!私たちがこんなに貴方を想ってるのに、それでも龍峰と結婚するって言うの?!」


「も、もう一度、考え直して…っ!」



ユナとアリアが一歩歩み寄る。



「オレ達だって、蒼摩の嫁になる覚悟を決めてきたんだぜ!」


「そうだ、オレと結婚しろ!」


「姉上とともに3人で暮らそう、蒼摩」


「蒼摩…!私が仮面を外した意味は分かるだろう!」



グイグイ近寄ってくる男3人、初めて仮面を外したソニア。


そして、潤んだ目で不安そうに見上げる最愛の恋人。



「蒼摩…っ」



横一列に並んだ花嫁候補達が、俺に最後の選択を迫る。



「さあ、今ここでもう一度選んでよ!蒼摩!」


「私というものがありながらなぜ男に走る必要がある?!」



あまりの勢いに一歩後ずさると、ガクリと足を踏み外した。


なぜか受け止める固い床はなく、どこまでも暗い空間に落ちていく。



「うわあぁぁぁーっ!!」


 
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