novel -past-

□小さな太陽
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第25話A


ねぇ、覚えてる?


僕と昔、ここで出会ったこと…。





パライストラに入学したての頃、僕は初めての集団生活に慣れなくて、よく寮を抜け出しては静かな湖のほとりまでやって来ていた。



「ひっく…うぇ…っ」



父さんや母さんに会いたくて、五老峰の大滝が恋しくて、泣いてばかりだった。


でも檄さん達に心配をかけたくなかったし、クラスメート達にも弱い奴と思われたくなかった。


いつものように目をこすっていると、突然大きな瞳が僕を覗き込んだ。



「お前いつもここで泣いてるな。こんな所いると停学になるぞ」


「わぁっ?!」



誰もいないと思っていたのに、そこには僕と同い年くらいの男の子が腰を屈めてこちらを見つめていた。



「…なんか、あったのか?」


初対面なのに、随分踏み入った質問をする人だ。



「……」



警戒して黙っていると、その子は僕の隣に腰を下ろして空を見上げた。


何なんだろう。


せっかく1人で泣いてるんだから、ほっといてほしい。


それに、もし停学になったら、五老峰に帰れるかもしれないし…。


膝に顔を埋めて小さくなった僕に、男の子はかまわず話しかけてきた。


 

「…俺の親父はさ。あそこにいるんだ」



横から伸びた指が、星のきらめく夜空を指した。



「…空?」


「うん…あの南十字。あそこから、親父はいつも俺のこと見張ってる」



空に向けられた指が、星をたどって十字に動く。



「だから俺、ちゃんとしてないといけないんだ。…胸張って、笑って生きてないと、親父にどやされちまうからさ」


「…」


「キミはいないの?そういう人」



胸の中に、包帯で目元を覆った父さんの姿がよぎる。



「泣いてるより笑ってる方が、その人も安心すると思うぜ」



離れて暮らす父さんは、きっと身体も心も弱い僕を心配してる。


チラッと男の子を見ると、口角を上げて僕を見ていた。


頬を濡らしていた涙は、いつの間にか止まっている。


ホームシックの僕を、励ましてくれてるのかな。


そんな人、初めてだ。


なんだか…嬉しい。


ほわっと、心の中に光が灯る。



「な?笑えよ」


「うん…僕も、父さんに恥ずかしくないように。…笑って、がんばるよ!」



腫れて重い瞼で微笑むと、その子も太陽のような笑顔を見せてくれた。


そっか…。
さっき光を灯してくれたのは、この、小さな太陽。



「へへっ…キミ、その顔の方が似合ってるぜ!」





これが、僕がパライストラで笑えるようになったきっかけ。





そして今、僕と蒼摩は、あの時と同じ場所にいた。

 
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