捧げ物

□星空えがお
2ページ/2ページ



「笑ってた方が、気分が良いからに決まってるぜよ」

ニヘラ、

当然だというように、辰馬は笑う

「でもよ、嫌なことだってあんだろ。笑ってばっかじゃ疲れね?」
「そうじゃのォ…」

困った様に向けられたのは、やっぱり笑顔
悲しい笑顔

「……たまに、疲れるぜよ」

くしゃり、と歪められた表情
久々に、見た気がする

「でも、ずっと笑ってたら、大体なんでも上手くいくようにできてるぜよ」

妙に大人びた声は、冷たい空気によく透った

「そうやって、ここまでこれたキニ。戦争で死なないで済んだのも、笑ってたからかもしれないのぉ」

あっはっは、って、不釣合いな笑い声が響く
それがやけに悲しくて
俺は、顔を背けた


それに、と辰馬は続ける

「もしも疲れたとしても、おまんがいればまた笑えるぜよ」

向けられた顔は、いつもの笑顔
屈託のない、ガキみてえな顔

「…なぁ、辰馬」
「どーしたがか?」

「……いや、やっぱなんでもねえ」
「なんじゃ、おかしな奴だのォ」


―――まだ、あんな顔もするんだな
歪んだ笑顔を思い出す
戦争が終わって、すっかり消えたと思ったのによ

…そーいや、昔から、本当の心の底は隠すのが上手かったっけ


もうこいつには、あんな顔も、あんな思いもさせたくねえ
せめて、俺の手の届くトコロでは、気楽な笑顔のままでいさせてやりてェ

だから、俺は……


「あ、流れ星ぜよ!!」

俺の隣で笑顔が咲いた
守りてー、って思うような笑顔が

「きれーなもんだな」


辰馬への呟きは、満天の星空に消えていった


END
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ