ブック(短編)

□こんなにも美しい世界で君と
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「もしも願いがひとつだけ叶うならさ、
おめぇの傍で眠らせてくんねーか?」



『こんなにも美しい世界で君と』



「なんじゃ、ソレ?」


わっちは聞く。夜空を眺める銀時に


けれど尋ねた本人はあっさりと無視をかまして


「なぁ、月詠
死ぬなら俺と月詠、どっちが先に死にたい?」


「はぁ?」


まだ人生の半分も生きてない癖して


また得意の戯言か?


からかいの言葉は銀時の銀色の髪をなびかせる風に拐われていく


気が付くと銀時は風の行く先を瞳で追いながら綺麗に微笑んでいた


その横顔は死を語る者のものとは到底思えず


「わっちは……一緒に死にたいぞ?自然死じゃ無理じゃろうけどな」


暗い話のような、ある意味プロポーズのような


口にした時は何でもなかったのに、銀時があんまりにも満足そうに頬を緩ませるものだから、わっちだけ真っ赤になって下を向いた


頭上から降り注ぐ軽い笑い声がわっちの意地っ張りな性格を擽り、への字に曲げた口で挑発した


「でもぬしは侍じゃろ?
侍なら戦場の華になって散るのが誉れってのではないのか?」



間髪入れずに銀時は言う


「わかってねーな
男なら惚れた女の腕の中で死ぬのが誉れってもんだろう?」

口じゃ勝てないのは知ってるが


そんなに勝ち誇った顔されると腹が立つ


真っ赤に染まる頬が悔しさでか照れでなのかはっきりしないのも勘に障る


優しく頭を撫でてきた銀時がまた遠くを見た


いつになく真剣なその表情で


また遠くを見た


「…………………俺も、一緒がいいな

けど、それが選べねーなら、俺は…
おめぇより先に死にたくはねー

置いてなんかいかなねーよ

こんな広い世界に、おめぇだけを独り残して…」


目頭が熱くなった


さりげなく繋いでくれた手が暖かい


わっちは銀時の肩にもたれ瞳を閉じた


このまま時間が止まればいい


別れが自分達に一生訪れないように


「だが…
おめぇを笑って見送れるようになるぐらいの時間は、一緒にいてくれんだろ?」

途方もなく永い時の流れを


一瞬だったと感じるその時までは


その肩に甘えさせて


この温もりを離さないで


"もしも願いひとつだけ叶うなら
あなたの傍で眠らせて"


美しきこの世界で


美しきこの世界で、人は荒んだ傷痕を背負う


汚れたこの世界で、人は皆…


鮮やかな血を流す


「あぁ、でも……………

やっぱり泣くんだろうな、俺」


その儚さに、そのか弱さに、美しさを想う人は哀れだろうか


いつの日の為だかわからない涙を、ただ銀時の胸で流し続けた









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