‡蒼色の扉‡(Main)
□未来からの手紙[後編]
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「…やらなければいけない事があるのでお先に失礼します。」
「…トランクスさん‥!!待っ‥」
悟飯は相手を呼び止めようと歩み寄るが、とっさに足を止めてしまった。
それはトランクスの真剣な眼差しに、ただならぬ空気を察したから。
トランクスはどこか寂しげな表情で言った。
『悟飯さん。あなたは自分が思ってるような弱い人間じゃない。
今日お会いしてその事がわかりました。
自信を持ってください。
あなたならきっと彼女を‥』
「…あのッ…!?…それってどういう…」
…バタン‥。
悟飯はすぐに駆け寄るが、相手は一足先に部屋から出て行ってしまった。
悟飯はトランクスが最後に言った言葉をよく理解できずにいた。心配げに相手が出て行った扉を見つめると、彼が去り際に見せた、あの淋しそうに微笑む彼の横顔が浮かんでくるのだった…。
……………………………
オレは間違っていた…。
トランクスは天井を眺めながら、今までの自分を振り返っていた。
ビーデルに何も告げずに姿を消したのは、自分がしようしていることがしだいに間違っているように思えたからだ。悟飯と通じたあの時から、その考えはトランクスの頭の中で大きくふくらんでいた。
(…これでよかったんだ)
視界が歪む…。
トランクスは溢れる涙を 堪えきれずにいた。
そう、彼の本心は、まだ彼女を諦めきれていない
のだ。
ビーデルに会えない淋しさが、彼の胸を激しく締め付けて止まない。
『…はあ‥』
深い胸中のため息。
(ビーデルさん‥‥‥‥)
彼は心の中で、何度もその名を呼んでいた。うずくまるように身を縮め、張り裂けそうな胸の痛みに必死で耐えて‥。
カチ‥ コチ‥ カチ‥ コチ‥
時計の音だけがむなしく響く…。
トランクスは落ち着きを取り戻していた。というよりかは心此処に在らずと言った方が正しい。
彼のその眼に、もはや輝きはなかった。
コン、コン。
「起きてる?トランクス‥入るわよ?」
『‥‥‥‥‥』
ガチャ…。
「…帰ってたのね」
そこに立っていたのは、トランクスの母親、ブルマだった。
「タイムマシン、庭に出しっぱなしだったわよ?」
『…ああ。後でしまっておくよ』
トランクスは背中を向けたまま答えた。
ブルマは、息子の元気がない事を察すると、背中越しにトランクスの顔をそっと覗き込んだ。
「あんた、恋してるわね?」
『!!??……‥』
トランクスは、その言葉を受けておもわず跳び起きた。そして振り向きざまに母親を見上げる。
目の前には、自信たっぷりに微笑む母親の顔が、すぐそこにあった。
『か、母さん‥!?な、なんだよッ‥!?』
トランクスは目を丸くすると慌てて退いた。その時、ブルマはトランクスの目が腫れている事に気付いた。そして表情を一変させると、心配そうに問い掛ける。
「あんた‥泣いてたの?」
『…いや、気にしないで‥別になんでもないからさ‥』
トランクスは顔を背けて答えた。そのはぐらかすように答える素っ気ない態度は、今に始まった事ではない。
何も聞かれたくない。
相手の心持ちが、その表情から伺える。
ブルマはそんな我が子をいつも不憫に感じていた。が、別に悪い気はしていなかった。
昔は明るい性格だったトランクス。母親想いで頼りになる彼だが、唯一兄のように慕っていた悟飯の死を境に、彼は変わっていった。
辛い時も悲しい時も、母親の前ではけして涙を見せなくなったのだ。
また心のどこかで心配をかけたくないと、虚勢をはっているのだろう。
ブルマはそんな意地っ張りな息子を、生前のかつての夫と照らし合わせていた。そして成長した我が子を眺めては、大きくなったなと、そっと笑みを浮かべていた。
「…無理‥してない?」
ブルマは、上目使いにトランクスを見遣って言った。これはブルマがよくベジータに言っていた言葉だった。
『‥平気だよ‥心配ないから』
トランクスは照れくさそうに短く応じた。長い時間時空を行き来していた彼にとって、母親とこうしてゆっくり話すのは、本当に久しぶりの事だった。