‡蒼色の扉‡(Main)
□未来からの手紙[後編]
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真っ暗な部屋に佇む二人、そんな彼等を部屋の隅にあるスタンドライトの燭りだけがぼんやりと照らす…
トランクスの話す言葉を黙って聞いていた悟飯は、相手の目を真っすぐ見つめるとゆっくり話し出した。
「僕はね、トランクスさんの事本当に偉いなって思いますよ…
トランクスさんが言う通り、僕はあなたみたいに大切な何かを失った悲しい気持ちは分からないのかもしれません…
現にドラゴンボールでみんな生き返らせてもらえましたからね…」
『……』
トランクスもまた、相手の話す言葉を静かに聞いていた。
悟飯は落ち着いた口調で続ける…。
「でもね、僕も大切な人を失った哀しみは分かりますよ…?
ピッコロさんやクリリンさん、天津飯さんや餃子さん、ヤムチャさんやみんな…
それに…大好きだったお父さん…。
みんなね、一度は僕の目の前で死んでいったんだ…
悲しかったし、それに悔しい気持ちでいっぱいだった…
あの時僕がもっとしっかりしてればってね…
…それにお父さんに至っては僕が死なせてしまったようなものです。
だから…こうして平和になった今でも、あの時の事はずっと引きずってます…
‥僕はね、一度みんなを失ってるからわかるんです。
あんな思いをするのは二度とごめんだ、もう絶対失いたくないってね…」
トランクスは悟飯の話す一つ一つの言葉がまるで胸に突き刺さるようだった。
目の前の相手もまた、深い哀しみをその胸の中に押し止めて生きてきたのだから…。
彼はそんな自分を心から恥じた。そしてその時初めて相手に敬意を払った。
トランクスは相手が座る椅子の前に立つと、謝罪を込めて深く頭を下げた。
『悟飯さん…
今までの貴方に対する数々の非礼…
どうか許してください』
悟飯はそれを聞くなり直ぐさま立ち上がった。
そして相手の傍へ寄り添う様に肩を並べると、そっとその肩を抱いた。
「そんな、謝る必要なんてありません…。
僕はまだまだ苦労知らずな未熟者なんです。
だから顔を上げてください、そんなの全然気にしませんから…」
『……』
悟飯は笑顔を見せた。
そして彼の手を取ると再び言い募った。
「辛い時代を生きてきたあなただからこそ、僕トランクスさんには絶対幸せになってもらいたいんです。
どうか彼女…いや、
ビーデルさんの事よろしくお願いします。
陰ながらお二人の事応援してますから…」
その時の悟飯の表情はとても清々しさを見せていた。
一方のトランクスは、相手の目をまともに見る事が出来ないでいた。
それは己の望みを叶える為とはいえ歴史を変える大罪まで犯し、その相手に偽りの未来さえも話していたからだった。
トランクスは愕然として
相手の手から離れると、崩れるように膝をつき両手をついた。
「あの…トランクスさん…?」
悟飯は相手の浮かない表情を見ると、心配そうに寄り添い声を掛けた。
その覗き見た表情は、絶望や後悔に苛まれたように歪んでいたのだ。
「…どこか体の調子でも悪いんですか…?」
トランクスは目をギュッとつむり、声を漏らした。
『…違うんです…違うんです悟飯さん…!!ッ…』
「何があったんですか!?
違うって…いったい何が違うんです?
ちゃんと言ってくれなきゃわかんないですよ!?」
悟飯は相手の両肩を支えると、うずくまるトランクスを抱き起こした。
尚も膝を着いた姿勢のままうなだれるトランクスは、沈痛な面持ちで力無く答えた…
『オレは…取り返しのつかない事をしてしまった…。
あなたにも、そしてビーデルさんにも…
このままじゃ…オレ…』
「…取り返しのつかない…事…?」
悟飯は憮然として問い返す。
「何があったのかわからないけど言ってみてください…
僕の事なら気にしませんから。」
『………………。』
トランクスは薄く目を見開き、相手の心配を尻目にゆっくりと立ち上がると、優しい眼差しで悟飯を見下ろした。
そして、無言のまま部屋から出て行こうとするトランクスを悟飯が呼び止める。
「ちょっとトランクスさん何処へ…!?まだ話しは終わってませんよ…!!」
その言葉を受けトランクスはゆっくり振り返る。