◆その他版権部屋◆

□二人のバレンタイン
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帽子屋の家ではチョコレートのあまったるい香りが漂っていた。
「お前、勝手に台所で何してんだ?」
「うーん…あっ!」
「あ?」
「ほらー、帽子屋さんが話しかけるから分量間違えちゃったじゃんかよ」
エプロン姿のアリスは腰に手をあてて帽子屋を軽く睨みつけている。アリスの手には砂糖の入った袋。その前には量りがあり上に砂糖が盛ってある皿が乗っている。
「まぁ、50gの違いくらいいっか」
「それはよくねーだろ」
「んーと、ほら、帽子屋さん仕様にしてみましたー」
「とってつけたような設定はやめろ。量り直せばいいだろ」
「面倒くさいから拒否」
先程まで真剣な表情で砂糖を量っていた人物の言う台詞ではない。しかしアリスは自分の言葉通りに分量の違いなど気にすることなく既に何かを混ぜ合わせてあったボウルに砂糖をざーっと流し込みゴムベラで混ぜ合わせ始めていた。
「それで、お前は一体何してるんだ」
「バレンタインの準備中」
作業をこなしながら答えるアリスに帽子屋は呆れたような溜め息をついた。
「バレンタインなんざ花屋で買って作ってもらった綺麗な花束とカードを贈りゃ充分じゃねぇか。なんで手作り菓子なんか作ってんだよ」
「何言ってんの。これだから帽子屋さんはモテないんだよ」
「あん?」
怒りを滲ませた声にアリスはからかうように笑った。そして混ぜる手を止めるとやっと帽子屋の方を向いた。
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