堕落小説
□バタフライノイズ
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僕は退屈に退屈していた。
だが、それは僕自身が、そうなる事を選び望んだ事でもあった。一日中、何をするでもなく安楽椅子に座り込んで、時々、足をぶらぶらと揺らす。
いや、それも自分の意識とは関係なく風にでも揺らされてるんじゃないだろうか?
でも、そんなのが僕にぴったりな、最悪で最善の生活。
誰かに、そう教え込まされたし、僕も信じて疑いもしていない―――――けど、誰が、そう教えてくれたんだっけ?
そんなに古い記憶でもないのに、もう忘れてしまった。
いや、本当に忘れてしまったか?
「それでいいんだ、それでいいんだ………」
思い出しそうになったけど僕は、そう何度か呟いて忘れさせた。記憶なんて、こんな場所では意味なんてないから。必要もない。記憶は、感情を呼び起こし、思考という労力を活発にさせる。やがて、その思考は、僕に苦痛と焦燥を与えてくる。
そう、苦痛と焦燥。
今、僕は、それを明らかに感じている。退屈だというもんは、やけに何かを考えさせようとしてくる。こっちは、そんな事、ひとつも望んでいないのに。
僕は、退屈と言う言葉を口ずさみながら、久しぶりに安楽椅子から立ち上がった。
歩くのも久しぶりか。
僕は、遅い足取りで何故か一目散に部屋の隅にある、クローゼットに向かった。理由はないが、予感はあった。前々から、そのクローゼットには嫌な感じがしていたのだ。
だから、開けたくない。見たくない。と思っていた。その反面、それは酷く魅力的であったのも事実。
退屈が、ここであるなら、そこには何があるのだろう?
あぁ、いけない。
駄目だ。脳が妙に冴えてきている。
予感がついているんだ。
「いや、知らない。僕は、知らない。」
そう言って、それさえも忘れさせた。
僕は知らない。
何も知らないで、ここを開けるのだ。
知らない。
知らない。
何度も、そう呟いて、そのクローゼットに手をかけ、
開けた。