堕落小説
□間違いなく明るい未来
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緑色に染め上げた髪を、無造作に纏めあげて、はしゃぐ君は、まるで子供のよう。
冷たいシルバーアクセサリーを、じゃらじゃらと鳴らし、寒い寒いと今日も震えて玄関の外で私を待ってるの。
「かおるちゃん、お腹空いたよ」
「ゆうくん、ごはんは?余所で食べさせてもらえんかったの?」
深夜と言うより朝方。
君と遊びたいっていう子は、たくさんいる筈だから財布の中が空っぽだってニューヨークだってどこだっていけちゃうのに。
餌付けられた猫の様に、ゆう君は、ここに帰ってくる。
ご飯は、缶詰めよりも安っぽくって、ボロアパートは外と同じくらい寒い。
(もっと、いいねぐらはあるんじゃなくって?)
私は、コンビニの袋とブランドバッグを両手に呆れた様に笑いかけた。
「鍵、上着のポケットに入ってるの。とってくれない?」
するりと君は立ち上がり、緩やかな仕草で歩み寄ると、ポケットを探るついでに、お腹を撫でた。
ひんやりとした指先に肩を揺らすと、耳元に生ぬるく囁かれた。
「堕ろしてよ。」
そう言われたのは初めてじゃない。
妊娠を、告白した、その日から毎日の様に懇願されている。
「いやよ。」
私は、決まって、そう答えるけれど。君は、どれだけ月日が経っても納得出来ない。
「私が、一人で育てるから。」
そう言ったて、
「俺が、独りになるじゃない。」
と、駄々を捏ねる。
「三人じゃ、駄目なの?」
「人数の話しじゃなくって、子供を産むのが駄目なの。」
「なんで?」
尋ねると、彼は大きく息を吸って、わざと喉を詰まらせた。
それでも、何とか白い息と共に聞こえてきたのは、流行りの免罪符。
「愛してるから。」
きっと、これを言ったのか君でなければ、白々しくって笑ってしまうんだろうけど、
悲しいくらいに嘘じゃなくって、本当に許されたい人の免罪符。
「愛してるんだよ。
かおるちゃんのことも、お腹の子の事も。
かおるちゃんが、こんな世界で瞬きして呼吸をしている事すら、悲しくなるくらいに。
愛してるんだよ。」
この世界は汚れていると言う有りがちな持論を元とした慈しみ方。
私は、思わず、その頭を掻き抱いてやりたくなった。