堕落小説

□ひとかい
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人買い。 


人飼い。 


人かい? 




****




床下の水槽。 
金網を被せて、魚を逃がさないようにする。


男は、それを覗き込んでは、満足そうに微笑んだりした。


「ふふふ。」


乳白色の天井には、赤色のヘリウムガスを吸った風船が、ぷかぷかと浮かんでいる。 


それを見上げる魚は、いったい、どんな気持ちか。 


金網に、両手を絡ませて、跡がつくくらいに額を押し付ける。


濡れた黒髪は、乾く事を知らない。 


「出せよ!この変態野郎!」


「口を、ぱくぱくさせちゃってさ。餌でも欲しいの?」


唇に無遠慮に触れる青白い指先を振り払うと、びちゃん、と水音がした。


「黙れ。俺は、魚じゃねぇ!」


「ふふふ。跳ねた、跳ねた。」


子供みたいに無邪気に笑う男は、随分といい大人なのに、仕草のせいか少年のようにも、幼女のようにも見えた。
それが、より一層、分別のつかない狂気に思えて、魚は目眩を覚える。 
いや、実際に身体の不調からくる目眩なのかもしれない。皮膚が、でろでろにふやけてしまうくらい長い時間、水に浸かっている。 陸生活の長い人間という生物にとって、その行為は、進化に逆らうもので、身体にとっていい筈がない。


「死ぬかもしれない。」


思わず口からもれた。 
それは、男の耳にも届いたらしく眉を僅かにひそめた。 


「死なないよ。死なせてなんてあげないよ。」


ふふふ。 


「そうだ、今度ツガイにする為に雌でも連れてきてあげる。」


とびっきり可愛いのをさ。


「それで、繁殖させるんだ。」


愉しそうに言葉をつむぐ、その口が忌々しい。
黙らせてやろうにも、拳は金網を貫けない。 


「いかれてやがる。」


矢張り狂っているのか。
人を買って、飼うのは、まだ何とか理解出来なくもない。 
ただ、それを魚のように扱い、ついには、この男は―――――――――――自分を、魚にしたいと思っている。 


それも長い時をかけて。 


「人は、元々、魚だったんだよ。いいや、海の生き物の類って言うのかな?
まぁ、僕にとったらさ、魚と何等変わりもなかったんだけどね。」

ふふふ。 


「それじゃあ、僕が、あんまりにも退屈になっちゃってさ。」
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