第四の扉

□希少価値
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「破ッ・・・・破ッ」


届くのは一生懸命な声。
目の前には自分の愛しい弟子である子たちが一生懸命修行に励む姿。

私はその子たちを導く、指導者、師範代に値する。
勿論、自分が完璧だとは思っていない。まだまだ未熟で、修行を怠ることなく、自分も教えつつ学んでいる。


「破ッ・・・破っ・・・」

「お師匠様!」

「どうしましたか?」


掛け声の間をある弟子の声が響く。呼ばれた私は振り向くが、他は少し見るだけですぐに練習に集中する。


「門に、お客様が・・・」

「客・・・ですか?誰ですか?」

「知らない人です。」

「名前は?」

「・・・聞くのを忘れました・・・」


はぁーっとため息をつき、わかりました。練習に戻りなさい、と言い、私は門へと向かう。

この時間帯だと他の武道家の師範代も修行中だろうし、もし用事があれば前もって連絡があるだろう。
緊急の用なら慣れないしあまり使わないが電話も置いてある。勿論電話番号も教えてある。

なら、町の人だろうか?
何か困ったことがあったのだろうか?


私は無駄に思考をグルグルと回しつつ、誰が来ていても失礼のないように乱れた服装を整える。


「忙しそうだな」

「・・・」


思い巡らせていたのも、本当に無駄に終わった。


「・・・ヴェルデ・・・何故ここに?」


そう、目の前にいるのはあの引きこもりのヴェルデだった。(勿論口に出すことはできない。)



「いえ、終わらすべき研究もひと段落着いたので、暇つぶしに外にでようかと。最近、風にも会ってなかったからな。」


そう、最近は訪れるどころか連絡もする暇もなく、声さえ聞いていなかった。


「すみません・・・大会が近いもので。伝えておくべきでしたね」

「本当に」



苦笑して私が言うと、ヴェルではため息をついた。
でも、どこか少しだけ安心したような顔を一瞬したのを私が見逃すはずがなく、


「心配・・・してくれたんですか?」


表情の戻ったヴェルデに問う。ヴェルでは一瞬きょとんとして、


「・・・はい?そんなわけないでしょう?」


と言った。
そういうのはわかっていたが、少しだけ、傷つきますよ、ヴェルデ。


「ただ、少し・・・突然来なくなったので気になっただけだ。少しだけだがな。」

「・・・ふふっ」

「何がおかしいんだ?」


不器用なヴェルデの感情表現。
それに自然と笑みが漏れた。

きっとしつこく言えば何を言われるか(されるか)わからないので、言わない。


「ふふ・・いえ、別に?」


そういえば、ヴェルでは少し気に食わないというようにむっとした。
その顔がまた、可愛らしく、愛おしく想え、笑みを漏らす。


「・・・末期」

「え?何がですか?」

「いや、何も。」


ヴェルデの呟きに首を傾げるが、それ以上言うつもりはないらしいので、それ以上は聞かないことにする。

いつも、そうやって私が自分から引き、ヴェルデのペースに合わせる。


「今は何をしていたんだ?」

「あ、そうでした。今、修行時間なんです。戻らないと・・・家に上がって待ってますか?それとも、」

「いますよ。」


私の言葉を切り、ヴェルデは言った。
私は一瞬キョトンとするが、すぐにいつもの笑みを戻す。


「わかりました。では、上がって待っていてください。すぐに客間がありますから。」

「いや、見る。」

「・・・へ?」

「ですから、練習を見させてもらうと言っているのだよ。」


・・・見る?練習を?ヴェルデが?
ちょっと、それはありえなくはないか?


「ほら、早くしなさい」


そう言ってヴェルではすたすたと私が来た方向に歩き出す。


誰か話の流れを教えていただきたい、切実に!
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