第四の扉

□特権
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三寒四温



それは春に近づく合図。



でも、
時には暖かいばかりも、








悪くはないでしょう?



















「おや、珍しいですね」


町を歩いてみると、思いがけない人に会った。



「食料が尽きたんだよ・・・」



まるで、ニートのような口ぶりに自然と笑みがこぼれる。

それを観て、何だ、と不機嫌そうに返したのは、
同じアルコバレーノ仲間であり、私の恋人でもあるヴェルデだった。



「ヴェルデが外に出るとは・・・雪が降りそうですね」

「悪かったな・・・それにこの時期じゃ、もう降らんだろう」

「嫌ですね・・・それほど珍しいという意味ですよ」

「馬鹿にしているのか?」

「まさか」


くすくすと笑いながら言うと、彼は少し不機嫌そうな顔をする。




勿論、ニートじゃない。

ヴェルデは所謂天才科学者で、私では目が回りそうな暗号(数式)も難なく解けてしまうほどだ。


まぁ、引きこもりではある。
それは絶対に誰にも否定はできない。


暇さえあれば、ニートがゲームなどに熱中するように一日中机や機械の前にいる。
彼は研究だというけれど、私から見れば差ほど変わりはない。
(いうと怒られるけれど)

彼が研究に没頭すると、周りは一切見えなくなる。
約束事や時間だけではとどまらない。食事や睡眠さえも忘れてしまうことは珍しくない。
というか普通だ。
その集中力が続く限り、一週間でも一ヶ月でも研究に全時間を費やす。
(だけれど、たまに意識を飛ばしているのだろう。でなければ人間ではない。)



「で、風はどうしたんだ?こんなところでぶらぶらと」

「えぇ、少し観光を」

「観光?」



不思議そうにヴェルデは私を見た。

私が『観光』としてくることは珍しい。
というか、滅多とない。
いつもは仕事か約束事か、ヴェルデの世話だ。

たまに来てはヴェルデの世話を妬く。
部屋の片づけを促して手伝い、食事や睡眠を取らせる。
そうでないと、何もかも忘れそうだからだ。
(勿論、睡眠前に軽・・・くは決してない運動をさせられるわけですが・・・//)


「えぇ、観光ですよ」

「また、なぜ?」

「この辺で、サクラ、という木が綺麗だと知り合いから聞いたのですよ。」

「知り合い?」

「えぇ、合同訓練で。」


怪訝そうな顔を隠そうともしないヴェルデが可愛らしく、それでいて嬉しく思う。

何を心配してるかは言うまでもない。



「それで見にきたんですよ。ちょうどこの当たりで次の大会がありますから、その下見ついでに」

「ほぉ・・・」



微笑んで言うと、彼は納得した顔をした。




わかっている。
彼は決して人といることを好まない。
そして科学以外には決して興味は持たない。

(私を認めてくれたこと自体が彼にとってはありえないことなのだから)

だから私も彼の性格や思考にあわすようにしている。

研究中は訪れたとしても、黙ってみて、キリのいいいい時を見計らって声をかけている。
詰まっているときに気分転換と言って外に連れ出すことは合っても、家の前どまり。
無理に外に連れ出すことはしない。

基本は全て彼が満足できるように、彼の邪魔をしないようにしている。


でも、
少し考えてしまう。

恋人となった今の今まで、デートらしきものは一度もしていない。
あるといえば一度だけ、彼が珍しく私の大会に見に来てくれたことくらいだ。
だがそれも、弟子がいた。
弟子の前でいちゃつくことはできないだろう。




だから、
彼と一緒にサクラというのを見れたら・・

二人っきりで、一緒に・・・




「では、行きましょうか」

「そうですね」


所詮は無理な、叶わない想いでしょう。
どうせ、次の研究に移る前に、少し食べようと思ったら無く、いやいや出てきたのだろうから。
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