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□舌触りで伝わる嫌悪
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しん、とした空気の中、リオがコーヒーを飲む音と、雑誌のページを捲る音が部屋の中に響く。
部屋の主は席を外している。たいした用ではなかったはずだから、もうじき戻るだろう。
何気なく目線をあげれば、空中を何かがふわふわと飛んでいく。埃かしら、そう思った途端、「何か」は急速に旋廻し、真逆の方向に飛んでいった。
特に気にも止めず、再度雑誌に目を落とす。




「あー寒かった」

やや顔を紅潮させたデンジが部屋に戻ってきた。ドアの開閉により外気が部屋に侵入する。空気が温くなる音がした。

「出してきた?」
「出した出した。間に合わないかと思ったぜ」


提出書類に抜けがあったらしく、リーグ本部から伝書ムックルが飛んできては半日デンジを煽っていた。慌てて作業に取り掛かるデンジの頭の上に鎮座する伝書ムックルのかわいいこと。
ムックルに書類を託して送り出し、今部屋に戻ってきたところだった。
作業中に淹れたコーヒーはすっかり冷め切っている。それをわかっていて、デンジはカップを手に取った。


「あ、虫入ってる」


コーヒーの表面に浮かぶのは小さな羽虫。
顔をあげたリオが嫌そうな顔をする。


「さっき何か飛んでたんだけど、それかなあ。どうせそれ冷めちゃってるよね、もう一回淹れるよ」


ソファから立つリオが、カップをよこせと手を伸ばしてくる。渡そうとして、ふとひらめいた。
ひらめけばあとは実行のみ。カップを口につけ、羽虫ごとコーヒーを嚥下する。リオが怪訝そうな、それでいて驚いたような表情を浮かべる。


「何やってんの!」
「うん、ちょっと」


こっちに伸ばしていた手を引っ込めようとしたところをすぐさま捕まえる。捕まえて、自分が立ち上がるのと同時に引き寄せて。
顔が近づいて、何か感づいたように顔面が青くなる。



「ふふ」
「…!」


にやり、と笑えば強張る顔。唇を守ろうとする左手を拘束して、そのままキスしてやる。
当然のように暴れるリオを力づくで抑え込んで、堅く引き結ばれた唇を無理やり割って舌をねじ込んでやった。荒らされる口内。
険しい眉間と、ぎゅっと閉じられた目蓋。その目蓋の端から、よっぽど嫌だったのか涙が滲む。


(犯してる、みてえ)


そのまま重力に身を任せて、涙が頬を伝っていく。
ぞくりと、背筋が震えるような感覚がした。

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