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□君のてのひらが近いうちに
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旅先で立ち寄った小さな洞窟。もちろん、立ち寄ったのはダイゴさんが大騒ぎしたから。
その大騒ぎした本人は今も嬉々として壁をながめたりさわったり掘りまわして楽しそうにしている。
手近な岩に座ってその様子を見守っていれば、洞窟の中に生息しているズバットたちが寄ってきて、近くにとまった。迷惑そうに鳴くズバットの頭をそっと撫でる。
目を離した隙に遥か向こうの方まで行ってしまっているダイゴさんを遠目にしつつ、その後ろに点在する(という言い方はきっと間違ってない…はず)メタグロスとボスゴドラを見やる。
そりゃああんだけの大きさでうろうろされちゃ落ち着かないわと毒づいて、その口でズバットたちに謝罪の言葉を述べた。



「あのー、あとどれくらいかかりますー?」
「まだかかるよー」


こちらを見もせずに返された言葉を聞いて、眉間に力が入った。聞こえもしないだろうにわざと大きく溜息をつくが、やっぱりそんなものはなんの効果もない。
膝に肘をつき、頬杖をつく。長期戦になりそうだ。









「おーい、リオちゃーん」


あまりの暇さに手持ちを全て出して、ブラッシングや体調管理をしていたときだった。
突然名前を呼ばれて顔を上げれば、先ほどより少し近い位置で、ダイゴさんが手を振っていた。来い、と言っているらしい。
重い腰をあげて、ダイゴさんのところまで歩く。たどり着くより先に、ダイゴさんが小走りでやってきた。



「どうしたんですか?」
「見て、これ!」


意気揚々としたダイゴさんが差し出したのは、青みがかった石。


「サファイアの原石が見つかったんだ! こんなに綺麗なのは滅多に出ないんだよ、みてよほら、」


石を持った手を少し上に掲げ、ライトで照らす。薄く青くのびるなめらかさと、光を向こう側へと突き通す鮮明さが、そこにはあった。


「きれい…これ原石なんですか?」
「うん。すごいよね。…で、これを」


ライトを小脇に挟んで、私の手を取ってそこにその石を握らせた。読めない行動に、つい2人して見つめあう。


「えっ、なんですかこれ…」
「リオちゃんにあげるよ」
「ええっ!?」



ダイゴさんはくすくすと上品そうに笑って、手の埃をぱんぱんと払った。


「サファイアにはね、信頼とか誠実とか、そういう意味があるんだよ。あとは邪悪なものから身を守るとも言われてる」
「へえ…、そうなんですか。さすがですよね、すぐ意味が出てくるなんて」
「好きなものはやっぱり知りたいじゃない? …で、これは君にぴったりだからさ」
「信頼と誠実がですか?」
「そうだよ。君には僕も信頼を置いてるし、君のポケモンたちだってそうだろう? 現に今だって、ズバットたちと仲良くしてたみたいじゃないか」


だからこれは君にあげるよ。
そう言われた言葉はダイゴさんの口からまっすぐ飛び出て、私は右手に握らされたその小さな石を握り締めて、もう一度ゆっくり手を開いた。青い小さなかけらが、私の手のひらの上で主張する。
信頼の証と言われているような気がした。きっとそれは当たらずとも遠くないのだろう。


「あ…、ありがとうございます。大事にします」
「うん。そう言ってくれて嬉しいよ」


スーツについた埃を叩き落しながら、私のポケモンたちが待っているところへと踵を返す。
やっぱりフィールドワークにスーツはおかしい、そう思ってもまた口には出せずに、私はまたそのサファイアを握りこんだ。向けられた信頼に見合うだけの何かをいつかこの人に返せたら、そうひとりで決意して。










君のてのひらが近いうちに
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