短編

□小さな共有時間
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「なるべく早く済ませてください。」


今まで抱いていた相手に酷い言い方だとは思う。
それでも早く済ませなくては困るのはお互いだ
 こくんと頷き冷たい湖で体を清めているマルス王子を見守りつつ辺りに気配がないかを確かめながら頭を抱えた。
 何度も繰り返しているこの背徳的な行為の終りに近くにある水辺で体を清めるマルス王子を見るのは何度目だろうか
互いに同意の上でやっているこの行為に問題があるとすれば男同士云々の前に相手が一国の王子だという事だ
ただの王宮騎士団の自分が王子相手に…こんな行為を続けていて良いのか等はお互いに好きなのだから問題無いとして、相手が王子だという事による会えない時間の長さをどうにか出来ないかが問題だった。
先程までしていた体を重ねる行為や体を清める作業、甘い言葉をはき合いたい時、ただ二人で居たくとも統べてにおいて隠れて、尚且つ人が居ないか注意を払いながらなんて限られた少ない時間では満足にすることは出来ない。理由は今が戦争中の忙しい時期であること。それでも出来る事ならもう少し二人で自由に会える時間が欲しい。
ジェイガン様辺りにばれれば大陸を揺るがす戦争中に何を不謹慎な事をと言われるまえに……考えたくないと頭を振りマルス王子の様子を伺うと体を拭いている最中だった。
傍に歩いて行き体を拭いていた柔らかい布を少し強引に取り冷えた空気に晒され粟立つ細い体を拭いていく
くすぐったそうに押し殺し損ねた小さな笑い声が辺りに響かぬようにマルス王子の顔を胸に押し付けるように抱きしめ髪を拭く
ある程度拭きおえると木にかけていた服を着せマルス王子自身のマントと自分のマントで体を包んでやり、木の根本へ座らせた。
 自分が湖で汗を流し終えれば畳まれた服とマントを俺に渡し『それではさようなら。』をマルス王子が告げ終了してしまう短い時間を終らせる為、湖に入り予定通り汗を流し体を早急に拭いていく
予定と違う事と言えば今日はマルス王子がさよなら、則ちこの時間の終りを告げないことだ
渡してくる服を一枚一枚着ながらも形の良い小さな唇がさよならを紡ぐのを待ったが時間の終りを告げる台詞は出て来ない
代わりに出てきた言葉は『カイン、今日はもう少し一緒に居ようか』という二人の間では今最も魅力的な台詞だった。

「戦が終わればこういった事も少しは簡単に出来るんでしょうね」

足の間に座らせているマルス王子の濡れた髪を撫ぜながら二人でやたらと明るい月を見ていた

「こっそり窓から出入りするのが大変なのは変わらないだろうけどね」
「関係が公に出るのは好ましくないから仕方ありませんよ」

少し悲しそうに眉を下げた横顔を見て、この人が王子じゃなければと考えてしまうのはとうの昔に何時もの事になっているので自分ではそれを気に止める事もなく好きだと呟き白い首に赤い跡を幾つか付けた
こんな時、マルス王子が普段から首まである服を着用している事に感謝しながら服で隠れない領域に跡を付けたくなる
そんな衝動を静かに抑えていると何時もは受け身のマルス王子が緩やかな動作で服のボタンを外し左肩に口づけてきた
口づけられたそこに痛みが走り、マルス王子の唇が離れた
痛みの走ったそこに赤い鬱血の跡が見られる

少しは淋しさが紛れると良いね、そう言い微笑みを浮かべ立ち上がったマルス王子の肩を抱き、足元に気を使いながら暗い山道を歩き出す。

しばらく歩き、普段より遅かったさよならを聞き、それではまた明日と言葉を交わし互いに別の方向へ歩き始めた。
 一度振り向くと同じ様にこっちを振り向き手を振ってくるマルス王子に手を振り返し今度は振り返らずに歩を進める
寝床に戻った時に同室のアベルには何処に行っていたと言おうか、アベルは人の名前と馬鹿を引っ付けてバカインなんて呼ぶが結構頭も使うぞ何て考え先程までの甘い時間を無理矢理忘れるに徹した。


明日もまた会えるんだから。




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END

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