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□夜の森の天狗
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ただ、楽しい時間とは早く過ぎてしまうもので、いつの間にか眠っていたタヘイは、これまた、いつの間にか顔を出していたお天道様を、ちょっと睨みつけてやった。
「起きたかタヘイ。ちょっと…外に出て、皆が来るのを見ていてくれないかの?」
タヘイは、何やらごそごそしている婆様に、目を擦りながら頷いた。秋に入る少し前の時期だが、朝はいつだって寒くて眠い。
特に昨日は、毛布にくるまって、婆様と天狗の話をしながらぐっすり眠ってしまった。もう少しぐっすり眠りたい。
「あっ…。婆様!スイリがもう来ています。」
戸を開くと、それに気付いたスイリが、にっこり笑って手をふってくれた。
タヘイも、思わず笑い返す。
「おはようタヘイ。今日は頑張ってお互い生き残ろうねっ!!」
「うん。」
ふと、怖くないのかな?とタヘイは思った。昨日はあんなにいやがってたのに。
と、突然スイリは、困ったように笑い、話し始めた。
「お父っつぁんが行ってたの。怖がっちゃ駄目だって。」
タヘイは心の中を見透かされたようでびっくりした。
「怖いけど…、大丈夫。自分を信じなきゃ。」
チチーチチー…と、鳥が鳴いている。婆様の家のわきに生えている樹の、朝露に濡れた葉が、きらりと輝く。
強いなぁ。と、思った。
誰にでも優しいだけでなく、こんなにも強い。
スイリはすごい女の子だな。きっと僕より強い心を持ってるんだ──…。
「ね、スイリ…。」
呼び掛けると、スイリは真っ直ぐな瞳で見つめてきた。
「僕、生き残ったら…。…生き残ったら、優しくって、強い人になりたい、な。」
スイリはまたにっこりと笑って、拳をきゅっと握って見せた。
「タヘイならなれるわ!応援してるね!!」
二人は、クスクスと笑いあった。
*
「皆、来たようだね。では、これを持って行きなさい。」
婆様は、色鮮やかな巾着袋を一人ずつ渡してながら歌うように言った。
「…山犬の骨と、それから、この村の土と、カダの葉が入っている。そなたらの、命を守る大切な物だよ。…明日の<昇りの刻>に、皆また出会えることを祈っているぞ。…山の神よ!!いざ、この者達の力量をうらなわん!!」
婆様の声とともに、子どもらは走り出した。渋々と走るもの、目を輝かせて走るもの。
それぞれが、ダナ山目がけて走って行く。
タヘイは、それらを見、巾着を懐にしまいこんでから、ダッと駆け出した。
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