防衛少女723ちゃん

□その名は『共鳴砲』!
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その頃
スノーシャドウこと小雪は宇宙人から幼稚園バスを一人で守っていたが敵は思いの外強く苦戦を強いられていた。
「くっ……一人じゃこの子たちを守り切れない……」
「一人だけで来るとは愚かな、とりあえずおまえを倒したら残りの二人もすぐ後を追わせてやる」
苦しげな小雪の姿に勝利を確信したのか宇宙人は高笑いすると止めを刺そうとした。


だがその時、宇宙人と小雪の間に強い風が巻き上がり宇宙人の動きを止めた。
「そこまでよ!」
「誰だ!」
声のする方角に目をやると街角のブロック塀の上に勇ましくも立ち上がる二人の少女の姿があった。
「地球防衛少女723!」
「同じくラグジー・ピーチ」
よほど練習したらしい、登場時のポーズや口上も随分板に付いてきたようだ。
「現れたな防衛少女、俺達『ヤリナオ星人』はまだ負けてはいない、今度こそ決着を付けてやる!」

「もう、しぶといわね〜」
前回この『ヤリナオ星人』には必殺技のソニックショットを使用している。
だがバツ印も付かずこうして再びヤリナオ星人と闘う事になった事からソニックショットではヤリナオ星人に止めを刺すことは出来ないようだ。

「どうしよう」
思案する夏美に横から桃華が声をかけた。
「723さん『アレ』使ってしまいましょう」
「え?アレってもしかしてアレ(共鳴砲)の事?」
「はい」
桃華は大きく頷いた。
「え?でもぶっつけ本番よ?」
「分かってます……でも私、この戦いを早く終わらせたいんです」
桃華は先日宇宙人達に敗れた私設軍隊や親衛隊の事を夏美に伝えた。
「倒れていった西澤家私設軍隊や私の親衛隊の人達の為にも……」
「で、でもやられても命は助かったんでしょ?」
「はい、命まではとられませんでした……でもあれでは死んでいるのと同じです」
「え?」
桃華の話によると命まではとられなかったものの何やらぞんざいなものに姿を変えられてしまったらしい。
「……そうだったんだ」
「はい、ですから……」
ぞんざいな姿に変えられた自分の親衛隊の事を思い出した桃華の瞳から涙がこぼれている。
親衛隊と言えば桃華にとって家族も同様、桃華の苦痛が夏美にも痛いほど理解できた。
「分かったわ、それじゃあスタンバイしましょ」
夏美は桃華の手を取ると大きく頷いて見せた。
「はい」
夏美は小雪にも共鳴砲使用を告げた。
「スノーシャドウ、早速だけど『アレ』行くわよ」
「アレですか?分かりました」
夏美達は細かい技でヤリナオ星人の足を止めるとまるで三角形を描くようにヤリナオ星人の周りに立ちそれぞれ急に歌を歌い始めた。
同時に歌い始めたにも関わらずそれぞれ全く別の歌を歌っている。
だが不思議な事にバラバラの筈の歌とメロディーは大きく共鳴を始めた。


「なんだこいつら急に歌なんか歌い始めやがって…しかも三人とも歌詞がバラバラじゃねえか……」
最初は突然夏美達が歌を歌い始めた事に目を丸くしていたヤリナオ星人だったがすぐ自らの身体の異変に気が付き始めた。
「ややっ!これはどうした事だ!!身体が動かねえ!!!」
「……そ、そうか、この歌だ…三方から聞こえる歌が物凄い音圧で俺をここに縛り付けているんだ」
「なぜだ?三人ともバラバラに歌っている筈なのに音が共鳴して物凄い響きを生んでやがる」

「……そうよ」
「これが…この歌こそが私達地球防衛少女の必殺技……」
「この地球に生まれ地球を愛するあたし達の歌……」
「『地球』はあたし達『地球人』の手で守るわ、侵略宇宙人なんかに渡さない!」


すると夏美の言葉に反応したかのように急に空が輝き始めると光の中からモアが現れた。
モアは珍しく綺麗なドレスを着ている。
「地球の少女たちよ、汝らの強き意志確かに聞き入れた…ってゆ〜か『女神降臨』?」
どうやら女神のつもりらしい、セリフもかなり棒読みだ。
「いでよ共鳴砲!」
モアの掛け声と共にヤリナオ星人の頭上に大きなパラボラアンテナの様なものが現れた。

「きょ、共鳴砲だと〜!」
身動きの取れないヤリナオ星人は頭上に現れた共鳴砲を見て悲鳴にも似た声を上げた。
現れた共鳴砲の効果により三人の歌がより響く中、桃華がそして小雪が共鳴砲に向かって手をかざした。
「宇宙に響け!地球を愛する『想いの歌』」
「宇宙に輝け!地球を労わる『願いの歌』」
「宇宙に轟け!地球を守る『誓いの歌』」
最後に夏美が共鳴砲に向かって手をかざすと最後は三人そろって共鳴砲発車の合図を叫んだ。
「シューティング!」
その瞬間強烈な光と音が発せられヤリナオ星人を包んでいった。
「うわあああ!!」
ヤリナオ星人の姿は見えずただ悲鳴だけが共鳴砲の音にかき消されていく。
「これが共鳴砲……」
夏美はひとり呟いた。



共鳴砲の効果が止みあたりが元の静けさに戻るといつの間にかモアの姿は消えていた。
共鳴砲の姿も無く夏美達の前には蹲るヤリナオ星人の姿のみが存在している。
「……大丈夫なのかしら?」
夏美がそう言いながらヤリナオ星人に近づくと突然ヤリナオ星人が立ち上がった。
慌てて引いた夏美だがどうもヤリナオ星人の様子がおかしい。
「いやあ地球大好き!」
急に笑顔で頭を掻きだすと楽しそうに踊り始めた。
「あたし達と闘って地球を侵略するんじゃなかったの?」
「そんな馬鹿な、争い事はもうゴメンだ……地球見物でもして星に帰ったら除隊するよ」
すっかり戦う意志を失っているらしいヤリナオ星人は笑顔で夏美達に手を振るとその場から離れて行った。
よく見ると背中にバツ印が付いている、どうやら夏美達の勝利らしい。


「これはどういう事だ?」
夏美達とヤリナオ星人の戦いを物陰から見ていた他の侵略宇宙人達はヤリナオ星人の変貌ぶりに目を丸くしていた。
やがてそのうちの一人が共鳴砲の力に気付いたらしく声を上げた。
「あの武器だ!」
「共鳴砲……音の共鳴を利用しているが同時に歌を共鳴させることで相手の深層心理に直接響き、影響を与える事で共感としての共鳴効果を謀ってやがるんだ」
「『侵略と戦闘の意志』を消し去り地球に好意を持たせるとは…強烈な洗脳の様なものだな」
その言葉に周りにいた侵略宇宙人達は恐怖に震えた。
「ヤリナオ星人の奴を見ろよ、侵略はおろか戦う意志まで完全に失ってやがる」
少し離れたところにヤリナオ星人がカメラを持って地球見物をしている姿が見える。
「俺達のアイデンティティである戦闘行為そのものまで奪うとは……なんて恐ろしい必殺技だ」
「……対策を練らねばな」
陰で戦いを観ていた宇宙人達は難しい顔をしながらその場を離れて行った。



「大成功ですね」
「うん」
戦闘が終了し、桃華が夏美の処へと駆けてきた。
「やりましたね夏美さん」
「うん、小雪ちゃんもよく頑張ったわね」
小雪もまた夏美の元へと駆け寄り夏美に抱き付いた。
三人とも共鳴砲の効果に大満足のようだ。

「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」
足元から聞こえてきた声に小雪が振り返ると先程までヤリナオ星人に襲われていた幼稚園バスの園児たちがバスから降りて来ていた。
御礼が言いたかったようだ。
「良かったね、皆怪我はない?」
「うん」
小雪の言葉に笑顔で頷くと園児達は幼稚園バスに乗ってその場から去っていった。



その頃
地下基地では夏美達の戦いをモニターしていたケロロが声を荒げていた。
「あの共鳴砲はどういう事でありますか?」
「結末を変えたいって言ったのはあんたなんだぜえ、親切に少しづつ変えてやったのさ…くっくっくっ」
ケロロが予定していた共鳴砲は所謂「ゲロゲロ…」と言ういつものものであったのに対しクルルは密かに夏美達がそれぞれの歌を歌う形に変更していたのだ。
「向こうの夏美さんに頼まれたんです『恥ずかしいから変えてって』」
クルルズラボの扉が開くとモアが現れた。
「モア殿……」
「このおかげでモアの役も少しだけ頂けましたしね、ってゆ〜か『モア・ピーチ・サマー・スノー』?」
目を丸くしているケロロに淹れてきたコーヒーを差し出すとモアは静かに頷いた。
「どのみち『共鳴砲』を使った事には違いねえしな」
「623に協力させて歌詞を作らせてな……共鳴効果を出させる為の調節に苦労したぜえ、く〜っくっくっくっ」
クルルは共鳴砲の仕上がり具合に満足げだ、何時もの嫌味たっぷりの笑い声を上げている。
そんな二人にケロロは一層声を荒げ文句を言った。
「それでは困るのであります!」
「我輩が変えたいのはもっと先の……今回の騒動の結末なのであります」


その時である。
ケロロの背後からつぶやきにも似た声が聞こえた。
「……変えたいって何?」
「今回の騒動の結末って?」
「向こうの姉ちゃんって?」
「君は誰なの?」
「僕の知っている軍曹じゃないの?」
何時の間にかケロロの後ろに冬樹が立っていたのである。

「冬樹殿……」
突然目の前に現れた冬樹の姿にケロロは言葉を失っていた。





次回予告

ねえギロロ、どうして嘘を吐くの?
あたしにパワードスーツをくれたのは最後にケロン星が勝つ為なの?
ボケガエルもモアちゃんも……それに冬樹まで……
なにをあたしに隠しているの?
教えてくれないのならあたし防衛少女やめる!
もうやめちゃうんだから!!
ジョージさんお願い、あたしのこと助けて!

次回『防衛少女723ちゃん』
第5話「疑惑」にラブリードリーム、カムヒア!
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