防衛少女723ちゃん

□侵略者…我が名は「723」
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此処は日向家
概ね体調も回復したギロロはいつも通り庭先で焚火をしていた。
そんなギロロのすぐ横に置かれたブロックには夏美が腰を下ろし、ギロロの焼く芋を待ちかねている。
これもまた日向家の庭先ではいつもの光景である。

「ほら、ちょうどいい焼き加減だぞ」
「ありがとギロロ、ギロロの焼いてくれる焼き芋は美味しくて学校帰りのおやつにちょうどいいのよね〜」
焚火で焼けた芋を渡すと夏美は熱々の焼き芋を息で冷ましながらおいしそうに頬張った。

「ねえギロロ、バトルロイヤルって奴ももうそろそろ終わりだよね?」
口いっぱいに押し込んでいたお芋を飲み込むと夏美は嬉しそうな顔をしてギロロに尋ねた。
「なんでそう思うんだ?」
ギロロは上機嫌で尋ねてくる夏美に首を傾げると質問に対する理由を聞いた。
「え?だってもうずいぶん戦ってるし、最近は戦いの回数も減っているような気がするんだもん…これってもうすぐ終わりって事じゃないの?……違うの?」
理由を聞くギロロに驚いたのか夏美は目を丸くしている。
「今までの戦いは言わば『予選だ』」
「予選?うそ〜、あんなに戦ったのに?」
戦いの終わりを期待していた夏美にギロロは今までの戦いが予選にすぎないのだと答えた。
その言葉に夏美は驚きの声を上げると共によほどがっかりしたのかガックリと肩を落とした。

「最初に言った筈だ、今回の戦いは『バトルロイヤル』だと……まさか夏美、バトルロイヤルの意味分かっていなかったのか?」
「失礼ね、ば、バトルロイヤルでしょ……えっと…えっと……えへへ」
どうやら夏美はバトルロイヤルの意味が良く分かっていないようだ。
ギロロは小さく溜息を吐くとバトルロイヤルについて説明を始めた。
「『バトルロイヤル』と言うのはだな……複数の個人やチームが『自分、もしくはチーム以外がすべて敵』という条件下で同時に戦って……」
「最後まで生き残った個人、もしくはチームが勝者として認められる『生き残り戦』だ、地球でもプロレスとかやらで見られる戦いの形式だ」
「今回は地球を手に入れようと参加した宇宙人の数が多すぎたらしくてな、まず予選として個々に戦わせたらしい」
一通りの説明が済むとギロロは別に冷ましておいた芋のかけらを横にいるネコに与えた。

「……そんな、これから本番なんて」
ギロロの説明を聞いた夏美は随分がっかりした様子で肩を落としたまま大きく溜息を吐いている。
「……最後まで残れよ、夏美」
「そして俺と闘え」
ギロロはそれだけ言うと焚火の火を消した。
「バトルロイヤルって……何時?」
「さあな、今日かもしれんし、明日かもしれん……俺は少し休むとしよう」
夏美の質問に答えるとギロロは立ち上がり、テントに戻ろうとした。
「……まだ身体の調子戻らないの?」
「そんなに軟では無い、戦いに備えて休息を取るだけだ」
「やっぱりジョー……」
背中を向けたまま首を横に振るその姿にまだ彼の体調が完全では無い事を察した夏美は慌てて立ち上がると、体調を崩す原因となったであろう男の名前を呼ぼうとしたが慌てて口を押え、それを止めた。
『……ダメ、あの事をギロロに言ってしまってはダメだ』
「ん?何か言ったか?夏美」
思わず出てしまった声に足を止めたギロロに夏美はごまかし笑いをしながら横に手を振った。
「ううん、何でもない、あたし頑張るから…だから……お願い、ギロロも最後まで残ってね」
「あ、ああ、お前との直接対決を楽しみにしているぞ」
夏美の言葉にギロロは珍しく笑顔を浮かべるとテントの中に入っていった。
夏美はギロロがテントに入るのを見届けると、食べかけの焼き芋を手にリビングへと戻っていった。



その頃
此処は日向家地下にあるケロロ達の秘密基地。
会議室にはケロロを初めギロロ以外の小隊メンバーと冬樹、623の姿が見えた。
「いよいよ最後の戦いが始まるのであります……そして」
「ねえ軍曹、あの話は本当なの?」
先程から心配そうな顔をして夏美達の映し出されたモニターを見つめていた冬樹の問いに静かに頷くとケロロは今回の事についてと自分の正体を話し始めた。
「本当であります、今お集まりの皆さんには事の次第を改めてここでご説明させていただくのであります……」
「先ず我輩は本来皆様と同じ時を生きるケロロではないのであります」
「我輩は今より少し先の時間より時を超えてやって来た言わば『少し未来のケロロ軍曹』であります」
ケロロは自らを今より少し先の時間から時を超えてやってきた『同じケロロでありながら皆の知っているケロロではない』のだと告げた。
「それじゃあ俺達の『時間』のケロロは何処にいるんだい?」
「もう一人の我輩は我輩の代わりに我輩の『時間』にご足労願っているのであります」
どうやらこの時間のケロロは彼と入れ替わりで少し先の時間の世界にいるらしい。話によると時空間のバランスを保つために同じ時間に同一人物が二人いてはいけないのだそうだ。

『目の前にいるケロロがケロロでありながら自分の知っているケロロとは異なる』
この事実に目を丸くしている皆の前でケロロは話をつづけた。
「今回我輩が『この時間』にやって来た訳……それはギロロと夏美殿を助ける為であります」
未来のケロロがわざわざ時を超えてやってきた目的はギロロと夏美の命を救う為らしい。
「大凡はクルルから聞いているけどもう少し詳しく教えてくれないかな?」
「了解であります」
623が詳しい説明を求めるとケロロは大きく頷き今回のバトルロイヤルの結末を話し始めた。
「今回のバトルロイヤルによる最終決戦が行われたその時、ギロロは夏美殿の手により命を落とすことになるのであります」
ケロロによるとバトルロイヤルのラストでギロロは夏美の手により命を落とす事になるらしい。
「伍長が死んじゃうの?姉ちゃんの手で?」
「その通りであります、戦いのラストに残っていた二人は互いに戦うことを強要され……」
「その結果、ギロロの奴は夏美殿にわざと撃たれ、倒れたのであります」

「そんな……そんなことって……」
ケロロの話を聞いた冬樹は立ち上がるとモニターに映し出されている二人を震えながら見つめた。
 そんな冬樹を安心させるためにケロロはわざと笑顔で自らの胸をたたいて見せた。
「安心して欲しいのであります冬樹殿、我輩その為に……ギロロを、そして夏美殿を助ける為にこの時間に来たのであります」
ケロロの笑顔に涙目ながらも笑顔を見せると冬樹は椅子に腰を下ろした。

「でもどうやって助けるんだい?」
623の問いに対するケロロの答えは実に単純なものだった。
「ギロロを死なせなければいいんでありますよ」
「ただし、全く異なる未来になってもいけないので最後のその瞬間まで物事の流れにあまり大きな分岐点を与えてはまずいのであります……だから我輩は今まで何も手を出さなかったのであります。」
夏美がギロロを撃つ……その時までは物事の流れが変わらないようにしなければならない……
ケロロはそれを見守る為、バトルロイヤルが開始された地点からこの時間のケロロと入れ替わっていたのだと皆に告げた。

だが現実は既に幾つか物事の流れに違いが出てしまっているようだ。
「もういろいろ変わっちまっているかもな、くっくっくっ……」
「共鳴砲の事でありますか?」
「元々は俺達の共鳴と同じだったのを俺と623で歌に変えちまったからな」
夏美たちの必殺技になっている『共鳴砲』だが元はケロロ達と同じように『なつなつ……』と言葉を続け共鳴するものだった。
それをクルルが623と協力して歌によるハーモニーで共鳴させるものに変えてしまったのだ。
だがケロロによるとそれ自体はそれほど大きな問題にはならないようだ。
「そのことによっておこる結果にさほど差が生じなければあくまで想定内の出来事でありますよ」
「じゃあ安心していいんだね」
ケロロの説明を聞いた冬樹がほっと胸を撫で下ろしている。
「その時までそっと見守っていて欲しいのであります」
「うん、わかったよ軍曹」
ケロロの説明も終了し、明日のバトルロイヤル時にまたこの場に集まることを約束すると集まっていたメンバーは会議室から出て行った。


会議室にはケロロとクルルの二人だけが残っていた。
「隊長、あんた日向弟にはああ言ったものの、実際のところ今までに分岐点になるような出来事だって起きちまっているんだろ?」
「……知っていたでありますか?」
「まあな、くっくっくっ……」
目を丸くするケロロにクルルはいつもの嫌味な笑い声を返した。
「大きく分岐するような変更点がないか、あんたの時間の俺とコンタクトをとっておいたのさ」
時間を超えてクルル同士で連絡を取り合っていたらしい。
クルルの言葉にケロロは丸い目を一層丸くしたがこちらのクルルもクルルであることに納得すると笑顔を見せた。
「あれがどのように影響してくるかは我輩にもよく分からないであります…だから今は見守るしか…それしかないのであります」
「……そうだな、何が起こるか……起こってみなくちゃわかんねえもんな、く〜っくっくっくっ」
二人は互いに顔を見合わせ笑うとモニターに映し出されているギロロと夏美を見つめていた。


続きます
 

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