防衛少女723ちゃん

□「疑惑」
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夏美の中に今までの出来事が映し出されていく……


『自分には場違いな舞踏会で壁の花になり溜息を吐いていた時、彼(ジョージ)は現れた……』
『素敵な笑顔で手を差し伸べてくれた事で楽しいひと時を送る事が出来た……』
『容姿も笑顔もすべてが素敵な人だった……出来ることならまた逢いたいと思っていた……』
「これをお前にくれてやる」
『ギロロから渡されたのは新しいパワードスーツを呼ぶブレスレットだった……』
「全力でお前とお前の愛する人……そして地球を守れ」
「もしも俺と闘う事になったら迷わずここを狙えよ」
『ギロロはそう言って自分の胸を指さした……自分を倒させる為に武器を渡すなんてどうかしているとその時は思った……』
『結局あたしは貰ったパワードスーツで宇宙人達と戦った……ギロロは強敵が現れる度にソーサーや共鳴砲をあたしに与えた……』
「あなたなら大丈夫です……」
『あの人、ジョージさんは防衛少女に変身したあたしがピンチになると風のように現れて救いの手を差し伸べてくれた』
『あたしよりもパワードスーツの事をよく知っているみたいで色々な機能や必殺技を教えてくれた……』
『なんでそんなこと知っているんだろうと思った事もあった……』

「夢?」
『あれはたしかギロロと夢の話をしている時だった……』
「夢は自分で叶えるものだ、お前ならできるさ」
『ギロロにしては珍しく憎まれ口じゃなかった事が驚きだったけど……』
『そう言えばジョージさんと結婚した夢を何度見ても最後はジョージさんがギロロに変わっていたんだよね……で、驚いて目が覚めちゃって……』

やがて夏美の中では記憶が複雑に混じり合いギロロやジョージの姿はあいまいになり心の奥には言葉だけが響き始めた。
ギロロとジョージ、二人の口調の違いは徐々に薄れ自分を見守る優しい想いと行動だけが夏美の心に広がっていく……
温かく心地の良い、それでいて少し切なげな胸の痛み……夏美の中でその想いは徐々に一人の男の姿となって現れ始めた。
……その男の姿こそ。


「……ギ、ロ、ロ」
「ギロロ!」
「623さん失礼します!」
夏美はベンチから飛び起きると623に頭を下げ駆け足で公園から出て行った。

623はその姿に笑顔を見せ一息吐くと携帯を取り出した。
「後は頼んだよ、クルル」
「まったくお節介な奴だぜえ、礼は言わねえよ…くっくっくっ……」
携帯の中から陰険な笑い声が聞こえる、623は立ち上がると公園を後にした。



夏美は家路を急いでいた。
『……あたしはバカだ』
『ギロロだったんだ…全部全部……』
『舞踏会で出逢ったジョージさんもいつも助けてくれるジョージさんも……』
『何時だってあたしが一人きりで困っていると助けに来てくれていた……』
『そんな事するのはギロロしかいないじゃない』
「ケロン人の姿では助けられないから無理して地球人の姿になっていたんだ……」
『そういえば何時だったか将来の夢をギロロとお話した事があったな……』
『いろいろな職業に憧れているけど一番の憧れは『お嫁さん』だってギロロに話したんだっけ……』
『ギロロったら「夢は自分の力で勝ち取るものだ」って偉そうなこと言ってたわね……』
『なによ変身パスワードの「ビューティフルサマー・ラブリードリーム・カムヒア」って……もうバカなんだから』
『バトルロイヤルが始まればあたしが無茶して宇宙人達に向かっていくって解っているから……』
『バトルロイヤルに参加している自分では助けることが出来ないからジョージさんに変身していたんだ』
『死にそうになるまで続けるなんてアイツってば本当にバカなんだから……』
『ううんそうじゃない、バカなのはあたし……』
『ギロロが倒れた原因はすべてあたし……あたしのせいなんだわ』
『気付かなかったのはあたし……瞳を閉じて目に見える姿かたちにとらわれず気持ちを受け止めればすぐに気付けたはずなのに……』
『もしギロロが死んじゃったらどうしよう……ううんそんな筈ない、ギロロは死なない……』
「絶対に死んだりなんかしないもん!」
翻るスカートの裾を気にもせず夏美は必死で日向家地下にある秘密基地に向かった。



此処は日向家地下にあるケロロ達の秘密基地。
そのメディカルルームに夏美が飛び込んできた。
「ギロロは?」
「なんだよお前来たのかよ?」
「こちらです夏美さん」
モアの案内で連れてこられた場所には先程ギロロが入れられたカプセルが置かれていた。

「これは?」
カプセル内を覗くとどういう訳か一定時間ごとにギロロがケロン体の姿と人間体のジョージの姿に変化している。
「一命はとりとめたがおっさんの中でケロン体と人間体が喧嘩していてな……今からどちらかに固定するところさ」
どうやらケロン体と人間体、どちらにも安定していないようだ。
「一度固定させればもう二度と変わらねえ……なあ日向夏美、お前はどっちが望みなんだい」
「どっちがって?」
「ケロン体のおっさんと人間体の『ジョージさん』とさ、今回は特別にお前さんの好きな方にしてやるよ、く〜っくっくっくっ……」
どうやらこれから安定させるらしいのだが驚いたことにクルルはケロン体と人間体、どちらにするのかを夏美に決めさせようとしているらしい。

そんなクルルに夏美は僅かな時間も置く事無く即答した。
「あんたバカじゃないの」
「ん?」
「ギロロに決まってるじゃない」
「ギロロはギロロだもん、元のギロロに戻してよ」
「夏美さん」
先程まで沈んでいたモアの表情が明るいものになっていく。
「いいのかよ、憧れのジョージさんとは二度と逢えないんだぜえ」
「いいから早く治しなさいよ!そうだクルル?」
「あん?」
「ギロロがジョージさんになってたメカがあるんでしょ?出しなさいよ」
「いいけどよう、どうする気だ?」
ギロロをジョージにしていた『ボクラハミンナイキテイルガン』はちょうどクルルの元にあったらしい。
クルルの手から夏美にガンが手渡されると夏美は思いっきり床に叩きつけた。
「こうするのよ」
夏美はパワードスーツを装着すると思いっきり『ボクラハミンナイキテイルガン』を踏みつけて破壊した。
「いい?この銃はあたしがこの部屋に怒鳴り込んできた時に暴れて壊した、もう修理が効かない、分かったわね!」
「それからあたしはギロロがジョージさんだった事に気付いていない……道で倒れていたギロロを見つけて連れ帰った……それでいいわね!!」
クルルやモアに声を出す暇さえ与えず話を続ける夏美の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「俺にタダで頼むって言うのかい?」
「欲しけりゃ体操服だって水着だって下着や靴下だってあげるわよ!それで済むならね!!」
やっとはさんだ何時ものクルルの言葉に対してもヒステリックな声を上げる夏美からは精一杯の様子がうかがわれる。
「夏美さん……」
その姿にモアの瞳からも涙が溢れていた。

あまりにも必死な夏美の姿にクルルは背を向けると頭を掻いた。
「逆に代償が高く付きそうだしよぅ……今回だけはお前の言う通りにしてやるよ」
「そうと決まれば治療の邪魔だ、日向夏美お前は日向家に戻んな、くっくっくっ……」
そう言うとクルルはギロロのカプセル横に置かれたパネルを操作し始めた。
「大丈夫でしょうね?」
「安心しな、明日には元気な姿が拝めるぜ」
「大丈夫ですよ夏美さん」
「そ、そう……じゃ頼んだわよ」
モアが笑顔で頷くのを見て夏美は名残惜しそうにメディカルルームを出て行った。

「曹長さんも良いところあるんですね」
「馬鹿言うな、あんな真っ直ぐな奴らに関わり合いになりたくないだけさ、後がめんどくさくてかなわんからな…く〜っくっくっくっ……」
背中を向けたまま嫌味な笑い声を出しているクルルの姿にモアは満面の笑みを見せていた。



自室に戻った夏美はベッドの上に小さなボタンを見つけた。
「これ…ジョージさんの上着についていた……」
夏美はボタンを拾い上げると窓を開けベランダに出て行った。
「えいっ」
ベランダに出た夏美は掌のボタンを握りしめると思い切り空高く投げた。
「……さようならジョージさん」
「……ううん、ジョージさんなんていない」
「……あれはギロロだもん」
「……ギロロなんだもん」
夏美はそう呟くと顔を上げ、星の見え始めた空をいつまでも見つめていた。





次回予告

長かったバトルロイヤルもあともう少し……
でもそれはあたしとギロロが直接闘う事を意味するの。
あたしは……そうだ、あたしの答えはもう決まっている。
そんなギロロとのラストバトルに現れたのは?
え?うそ……うそでしょ?

次回『防衛少女723ちゃん』
第6話 侵略者…我が名は「723」にラブリードリーム、カムヒア!
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