防衛少女723ちゃん

□「疑惑」
4ページ/5ページ


「おい日向夏美、聞こえるか?」
眼の前に寝ていた筈のジョージがいつの間にかギロロに変わっていた事に困惑する夏美の頭上からクルルの声が聞こえてきた。
夏美が顔を上げるとクルルのメカらしいものが天井から降りてくる。
「おっさんがそこで倒れてるだろ?今モアの奴が部屋に行くから渡してくれ」
どうやらベッドに倒れているギロロをモアが迎えに来るらしい。

「分かったわ、クルルあんたのせいね!」
夏美は何か思いついたらしく急にクルルのメカに向かって声を荒げ始めた。
「あたしが防衛少女やめるって言うからギロロをジョージさんに化けさせてあたしを説得しようって魂胆なんでしょ!!」
夏美はケロロが自分を防衛少女として戦わせる為にクルルの力でギロロを偽のジョージに変身させたのだと考えたようだ。
「ギロロはずっと具合が悪いんでしょ?何無理させてんのよ!!」
夏美はこのところギロロの体調がおもわしくない事を知っている。
目の前で倒れているギロロの姿にジョージへの変身がギロロの身体にかなり負担を強いらせたのだろうとヒステリックな口調でクルルを責めた。

だがクルルはそんな夏美の言葉に耳を貸さずとにかく早くギロロを預ける様に話を続けた。
「まったくギャアギャアとうるせえ女だな、そんな事よりモアが着いたらすぐにおっさんを渡しな、非常事態だからよう」
「……そんなに具合が悪いの?」
クルルの口調からギロロの具合がかなり深刻な状態にあると感じた夏美は荒げていた声を止めた。
「どこかのバカ女の為に無理しやがるからな」
「……どういう事?」


その時、夏美の部屋のドアをノックする音が聞こえたかと思うといきなりドアが開き、大きめのカプセル型ストレッチャーを押しながらモアが飛び込んできた。
「すみません夏美さん失礼します」
「モアちゃん」
「モア、手筈通りおっさんをカプセルの中に入れな」
大きなカプセルはケロン人のギロロが入るにはいささか大きすぎるものだ、成人の地球人でも楽に入る大きさだろう。
「ごめんなさい夏美さん、伍長さんをお預かりします」
「う、うん……」
夏美がベッドから離れるとモアはベッド横にカプセルを並べ透明のふたを開けた。
「急げよ」
「は、はい」
クルルに急かされながらモアはギロロをカプセルに寝かせると何やらパイプやコードをギロロの身体に貼り付けた。


「あ、あたしも行く」
「日向夏美、今お前が来ても何の役にも立たねえよ……お前は精々ジョージさんとやらの夢でも見ていな」
カプセルにギロロを収め部屋から出て行こうとするモアに夏美も付いていこうとしたがクルルが嫌味たっぷりな口調でそれを止めた。
「……なにが言いたいのよ?」
夏美はクルルの言葉の意味が分からず小声で文句を呟いている。

「夏美さん」
ドアのところまで来たモアは立ち止まると少し切なげな声で夏美の名を呼んだ。
「よく考えてください、何故何時もジョージさんは夏美さんが困っている時にだけ現れたのか……」
「初めて舞踏会で出会った時も……」
「防衛少女として戦っている時も……」
「お約束していますのでこれ以上モアは何も言えません…っていうか守秘義務?」
「失礼します」
モアはそう言い残すとギロロの入ったカプセル型のストレッチャーを押して逃げる様に部屋から出て行った。
「……どういう事?」
一人残された部屋の中で夏美はいまだ状況がつかめず呆然と立ち尽くしていた。
ただ最後に見たモアの悲しそうな目がどこか自分を責めているような気がして胸が痛んだ。



此処は日向家近くの公園
「……もしかして今までずっとギロロがジョージさんだったって事?」
「……まさかそんな事」
「……でもモアちゃんのあの顔……」
夏美は混乱した自分を落ち着かせる為に公園に来ていた。
ベンチに腰をかけながら先程から一人でブツブツと呟いている。
「モアちゃんもボケガエルに頼まれて演技しているのかもしれないし……」
「大体ギロロとジョージさんじゃ全然違うじゃない……確かに声は同じかもしれないけど……」


「あれ?夏美ちゃん?」
独り言を繰り返していた夏美のすぐ横で名前を呼ぶ声が聞こえた。
夏美が顔を上げるとそこには顔を覗き込む623の姿があった。
「む、む、む、623さん」
目の前のごく近い位置に623の顔を見つけた夏美は顔を真っ赤にしながら慌てている。
「こんなところで何をしているの?」
「べ、べ、別に……む、む、623さんこそ」
ベンチに腰掛けながらブツブツ呟いているところを見られ夏美はしどろもどろになっている。
「俺はただなんとなくブラブラしていただけだよ、今日はこの後ラジオ局だしね……横に腰掛けても良いかい?」
「は、は、はい…どうぞ」
「ありがとう」
623は夏美の横に腰を下ろした。

「そう言えば夏美ちゃん『防衛少女』やめたんだって?」
突然623の口から出た話題は夏美が防衛少女をやめた事についてだった。
「ど、どうしてそれを?」
「さっき冬樹君に聞いてね」
「そ、そうですか」
決めたばかりの事を623が知っていた事に驚いた夏美だったが弟の名前が出た事でどうやら納得したようだ。
大きく息を吐く夏美の姿に笑顔を見せると623は話を続けた。
「一度聞きたかったんだけどどうして夏美ちゃんは『防衛少女』になったんだい?」
「……なったつもりは」
「でもいつも『防衛少女』って口上で言っているじゃない」
「……そ、そうですよね……あたしったら」
確かに宇宙人と戦う際の口上で『防衛少女』と名乗っている。
夏美はその事に気付くと顔を真っ赤にして恥ずかしそうに頭を掻いた。

自分を見つめる623の優しい笑顔にもじもじしながら夏美は少しづつ初めて変身した時の事を話し始めた。
「初めは目の前でお友達が宇宙人の手にかかりそうになったのをどうしても助けたくて……それで……」
「伍長さんからもらったパワードスーツを使ったんだね?」
勿論623はパワードスーツがギロロの手から渡された事を知っている。
「……はい…で、結局アイツらのバトルロイヤルって奴に巻き込まれて……それにあたし達地球人無視で地球を手に入れるバトルロイヤルなんて許せないし……」
そこまで話を続けると急に夏美の表情が曇り始めた。
「……でも」
「でも?」
夏美は最近周りの様子がおかしいと感じている事を623に打ち明けた。
「パワードスーツで戦うようになってから周りがおかしいんです」
「おかしいって?」
623は話を続けるよう夏美に即した。
「ボケガエルはなんだかいつもと様子が違うし、冬樹やモアちゃんまで何かあたしに隠し事しているみたいだし……」
「クルルなんかギロロを地球人に化けさせてあたしに戦いを続けさせようとするんです」
「へえ?地球人に?伍長さんを?」
その話に興味津々らしく623は身を乗り出した。
「はい、何時もあたしの事助けてくれる人がいるんです、ジョージさんって言うんですけどその人に何度も助けられました」
ジョージの名が出た時夏美の顔が赤く染まり始めた。
「夏美ちゃんはそのジョージさんが好きなんだね?」
「そ、そんなこと……いつも助けてもらっているから…良い人だなって……」
「ふふ……」
耳まで真っ赤になって否定する夏美の姿に623は優しい笑顔を見せている。
次の瞬間夏美の表情が厳しいものになっていった。
「あたしが『防衛少女』止めるって言ったらよりによってギロロをその人に化けさせたんです、ギロロだって最近体調悪いのに無理させてまったくボケガエルったら!」
ギロロがジョージの姿になった事をすべてケロロの差し金と思っている様子だ。


そんな二人の前からいきなり小さな子供が声をかけた。
「この前のお姉ちゃんでしょ?」
「え?」
声のする方に目を向けると小さな女の子が立っていた。
確かにどこかで見た気がする、それもごく最近だ。
「あなたこの間誘拐されそうになってた……」
夏美はその子がラッチ星人の誘拐されそうになっていた女の子だという事を思いだした。
「この前はありがと、お姉ちゃんは大丈夫だったの?」
「あ、う、うん……大丈夫よ、防衛少女に助けてもらったから」
夏美は自分も防衛少女に助けられたことにした。
「そっか、よかったね」
「お〜い」
広場の向こうで友人たちが女の子を呼んでいる。
「みんな呼んでるからもう行くね、バイバイ」
女の子は手を振ると友達のいる方へと走っていった。


皆の処に戻った女の子はどうやら『防衛少女ごっこ』で遊んでいるらしい。
「見てよ夏美ちゃん、あの子たち防衛少女ごっこで遊んでいるみたいだよ」
「本当、かわいい」
その姿に623も夏美も思わず笑顔を見せた。
「ここに本物がいるのにね」
「パワードスーツを装備した時は身バレしないようになっているらしいです」
二人は顔を見合わせると吹き出しそうになるのを抑えるのに必死だ。

623は夏美と目線を合わせず子供達の姿を見ながら話を再開させた。
「君は成り行きで『防衛少女』になったって言っているけどあの子たちや周りの人達はきっと君に感謝しているさ」
「え?」
急にまじめな話になった事に目を丸くしている夏美に笑顔を見せると623は話を続けた。
「自衛隊も警察も西澤私設軍隊も宇宙人達にはかなわなかった……」
「この街も総攻撃を受けていないから見た目平穏だけど何時宇宙人に襲われるか分からないからいつもより外に人がいない」
「夏美ちゃん達が颯爽と現れて助けてくれるからまだ普通の生活が出来ている……俺はそう思うな」
「そんな…こと……」
623に褒められ夏美はもじもじと恥ずかしそうにしている。
「それに夏美ちゃんだって最初は成り行きかもしれないけど今は違うんでしょ?」
「え?」
顔を上げて自分を見つめる夏美に623は小さく頷いて見せた。
「夏美ちゃんはあの子を助けたいと思った…だから防衛少女に変身した」
「あの子だけじゃない、友人も、そしてそのジョージさんって言う男の人もこの街の人達も助けたくて変身した……違うかい?」
「……はい、きっとそうです」
623に優しい言葉に夏美も大きく頷いた。
その様子に頷くと623は更に話を続けた。
「もし最初からパワードスーツが無く日向夏美のままだとしたら……どうしたかな?」
「・・・・・・・・」
「俺の予想だと夏美ちゃんはそれでも宇宙人達に向かっていったんじゃないかな?」
「・・・・・・・・」
夏美は言葉を失った、まさにその通りだからである。
「今まで戦ってきた宇宙人に勝つ事が出来たのかな?」
「・・・・・・・・」
「パワードスーツがあって良かったね」
「・・・・・・・・」
言葉の一つ一つがもっともなのであろう、夏美は一言も返すことが出来なかった。

「じゃあパワードスーツの本当の意味を分かってあげなくちゃ」
「本当の……意味?」
話しの意味がつかめず首を傾げる夏美に623は静かに瞳を閉じるよう告げた。
「思い返してごらん、パワードスーツをもらってから今までの出来事を……」
「伍長さんの事もジョージって男の人の事も……」
「自分の夢の事も……変身のパスワードも」
「……夢?パスワード?」
「さあ、瞳を閉じて……」
夏美は623の言う通り瞳を閉じ、これまでの事を頭の中で思い返していった……
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ