防衛少女723ちゃん

□「疑惑」
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その日の夕飯後
夏美は冬樹とケロロに防衛少女をやめる事を伝えた。
「地球代表やめちゃうの?」
「そうよ」
夏美は冬樹もケロロもかなり驚くのではと思っていたが二人の反応は夏美にとって予想はずれのものであった。
「うん、それもいいかもね」
「夏美殿の好きにすればいいのでありますよ」
二人とも夏美が闘う事をやめる事に大賛成のようだ。
「・・・・・・・・」
ケロロの予想外の反応に無言のまま目を丸くしている夏美にケロロは笑顔を見せた。
「以前にも言った筈でありますが元々そのパワードスーツはギロロが個人的に夏美殿にプレゼントしたものであります……」
「我輩達は最初から夏美殿にバトルロイヤルに参加してもらおうとは思っていないのでありますよ」
確かにバトルロイヤルに参加しろとは一度も言われてない気がする……夏美はさらに言葉を失っていった。

「なんにしても姉ちゃんがこれで参加しなくなれば伍長だって……」
「冬樹殿!」
冬樹がほんの少しだけ調子に乗って話を続けようとした時ケロロが声を僅かに荒げそれを止めた。
「あ…ゴメン軍曹」
冬樹は思わず照れ笑いを浮かべながら手で口を押えた。
「なに?ギロロがどうしたの?」
「い、いやなんでもないよ」
「冬樹殿、我輩の部屋でゲームの続きをするであります」
「う、うん、そうだね」
その様子に夏美が身を乗り出すとケロロと冬樹は逃げる様にリビングから出て行った。
「あ、ちょっ、ちょっと待ちなさいよ……なんなのよ」
慌てて呼び止めたがケロロと冬樹の姿はもうない。
「やっぱり冬樹も何か隠しごとしてるんだ……どうして?」
夏美はケロロだけでなく冬樹に対してもハッキリと不信感を感じ始めていた。


入浴を済ませ自室に戻った夏美はベッドに横になると頭の中で今までの事を整理していた。
「確かに別に地球代表として戦えとは言われてないわね……」
少しだけ夕食時までよりは冷静になってきているようだ。
「……でもボケガエルもモアちゃんも…それに冬樹まで絶対何かあたしに隠し事してる…それもやっぱりバトルロイヤルが始まってからだ」
「バトルロイヤルに何があるって言うのよ……」
夏美は頭を抱え込むとベッドから起き上がり箪笥の奥にしまい込んだブレスレットを取り出した。
「ギロロはどうしてあたしにブレスレットをくれたんだろ?」
「……ううんそれだけじゃない、ソーサーを用意してくれたり必殺技の『共鳴砲』まで……」
「あのハンゾック星人が言うようにあたしを利用して対戦相手を減らそうと……ううん、アイツはそんなことしない」
「もしかして本当にあたしと最後に戦いたくて?」
「……まさか」
「わかんない……わかんないよ」
「ギロロ……」
夏美はブレスレットを箪笥に戻すとベランダに出た。
ベランダから庭先を見下ろしたが庭先の住人の姿は無い。
「ギロロ…まだ帰ってきてないんだ……もしかしたら具合悪いのかな?」
人気のない庭先の様子に溜息を吐くと夏美は部屋へと戻っていった。
「防衛少女やってから色々あったな……」
夏美はこれまでのことを思い返していた。
「……ジョージさん」
夏美はこれまでいつの間にか現れてピンチの自分を何度となく助けていたジョージと名乗る男の姿を思い出すと顔を赤らめた。
「初めて舞踏会で出会ってからずっと逢わなかったのに何でジョージさんは突然現れて何時もあたしを助けてくれたのかな?」
「ずっとあたしを見守ってくれているような気がするけど……まさかね」
「防衛少女辞めたらもうあたしの前に現れてくれないのかな?」
「ジョージさん……」
夏美は大きく伸びをするとベッドに潜り込んだ。



次の日の放課後
結局夏美はブレスレットを箪笥の中にしまったまま登校した。
一時の感情的な気持ちは薄らいでいたがとりあえず変身するのをやめる事にしたのである。
変身しなければ自分を地球代表と気付く宇宙人もいないであろう…そう考えたのだ。
幸いな事に今日は放課後まで特に事件も起きず、まさに『平和』そのものと言った一日であった。
小雪はドロロと修行の為一足先に帰宅し、桃華はオカルトクラブの活動で冬樹と学校に残っている。
途中でやよいやさつきと別れ夏美は一人家路を急いでいた。


……と、その時
曲がり角を曲がった夏美の目の前に宇宙人と思われるものがまだ幼い少女を小脇に抱えその場を立ち去ろうとしていたのである。
すぐ横には公園がありおそらく遊んでいた子供達を襲ったところこの少女一人逃げ遅れ捕まってしまったらしい。
少女は泣き叫ぶが近くに大人の姿は無い、宇宙人は少女の口をふさぐと少女の身体を縛り上げようとニョロの様なものを取りだした……

が、次の瞬間少女は宇宙人の手から離れ何者かの腕の中へと移動していた。
夏美である、夏美はとっさに宇宙人に向かって駆けよると宇宙人の手を引っ張り、少女を奪い返したのである。
「誰だ!」
「『誰だ』じゃないわよ、こんな幼い子をさらおうだなんて最低ね!」
夏美は少女を地面に下ろすと自分の後ろに下がらせた。
「俺は『ラッチ星人』原住民の子供を誘拐し宇宙のマニアに売りさばく商売をしているのさ、邪魔をするというのならお前もただでは済まんぞ」
ラッチ星人は手に入れたはずの獲物を盗られかなり腹を立てている様子だ、素早く後ろに下がった夏美に向かって両手を大きく広げながら迫ってくる。
「お姉ちゃん!」
「良いから後ろから逃げなさい」
見ると遥か後ろに友達らしい子供達が身を隠すようにしてこちらを覗いている、夏美は笑顔で少女の背中を押した。
少女は大きく頷くと「ありがとう」と言ってその場から逃げて行った。


「うぬぬ〜、よくも逃がしてくれたな!折角今月のノルマが達成できそうだったのに!!」
「こうなったらお前を連れていく事にしよう、少し育ちすぎているようだがまだ子供のようだからな」
ラッチ星人は夏美を捕まえる事にしたようだ、猛烈な勢いで夏美に襲い掛かった。
「ビュ〜ティフルサ……そうだ、ブレスレット」
思わず夏美はパワードスーツを身に付けようとしたがパスワードを叫びながらブレスレットを箪笥にしまい込んだことを思い出した。
『そうだ、変身しないつもりでしまってきちゃったんだ……どうしよう』
とっさに夏美はしゃがみこむとラッチ星人の腕を逃れ後ろに回り込んだ。
「ほう、なかなかやるな…だがそこまでだ」
振り向くラッチ星人の手を逃れる為に夏美はジャンプし、星人との間合いを取ろうとした……が、
「させるか!」
その時突然ラッチ星人の左手が大きく伸びると夏美の足首を掴んだ。
どうやらラッチ星人は子供を捕まえる為に腕が良く伸びる様になっているらしい。
「きゃっ」
夏美は地面に叩きつけられた。
足首を掴まれ身動きのできない夏美にラッチ星人は勝ち誇ったような笑みを浮かべながらじりじりと近づいてくる。
「やだ……助けて……助けてよ、ギロロ……」
恐怖におびえる夏美は目に涙を浮かべながらギロロの名を呼んだ。

「さあ観念しろ!」
ラッチ星人はそう叫ぶと今度は右手を勢い良く伸ばし始めた。
夏美は絶体絶命のピンチに思わず目を閉じた。


「???」
次の瞬間、夏美の身体は自由を取り戻していた。
慌てて目を開いた夏美の前に見た事のある背中が見えた。
「大丈夫ですか夏美さん」
「ジョ、ジョージさん」
夏美とラッチ星人の間にジョージが割って入っていたのである。
「は、はい…ありがとうございます」
夏美は顔を真っ赤にしながら笑顔を見せた。
「それは良かった……夏美さん、早くここから逃げなさい……」
夏美の笑顔を見て微笑んだジョージだが様子が変だ。
気が付くとジョージの胸にラッチ星人の右手がめり込んでいる、ラッチ星人の伸びる腕でもろに攻撃を受けてしまったらしい。
「早く」
そう言うとジョージはその場に倒れた。
「ジョージさん!しっかりして!!」
夏美はこの時パワードスーツのブレスレットを自宅に置いてきた事を心の底から後悔した。
『ジョージさんを助けたい…でも…でも……』

「どこの誰かは知らんが余計な邪魔をしやがって、まずお前を始末してからにしてやる」
ラッチ星人は腕を戻すと夏美達に迫ってくる、夏美はジョージを抱きかかえると必死でその場から離れようとしたが大人の男を抱きかかえて動かせるほどの力は持ち合わせていない。
「どうしよう」
夏美は肩を落とした。
「手……手をあげて」
苦しそうに胸を押さえながらジョージが夏美に話しかけた。
「手をあげて呼びなさい……『パワードスーツ』と」
そこまで言うとジョージは気を失った。
「呼ぶ?パワードスーツを?」
ジョージの言う事が良く理解できない夏美だったが迷っている暇はない、夏美は手をあげて叫んだ。
「パワードスーツ!!」

その瞬間夏美の手首が急に輝いたかと思うと箪笥の奥にしまってある筈のブレスレットが装着された。
手首に輝くブレスレットを確認した夏美は再び声を上げた。
「ビューティフルサマー・ラブリードリーム・カムヒア!」
たちまち夏美の身体は光に包まれパワードスーツが装着された。

「お、お前、地球代表の!」
変身した夏美の姿に驚くラッチ星人を夏美は涙目で睨みつけた。
「あんたは絶対に許さないんだから!」
何時の間にかソーサーが夏美の傍に来ていた。
「こいつはランク的にはC級だ、ソニックショットで行け」
パワードスーツのナビが夏美に話しかけた、夏美は頷くとソーサーを変形させソニックショットを撃った。



此処は日向家
戦いに勝利した夏美は自室に戻っていた。
勝利したのも関わらず夏美の表情は沈んでいる。
なぜならば夏美のピンチを救ったジョージは意識を戻さず夏美のベッドに倒れたままだからだ。
倒れたジョージをそのままにしておく訳にはいかずソーサーに乗せ、とりあえず日向家に連れてきたもののどうして良いか分からず自室のベッドに寝かせる事にしたのである。
「どうしよう…ジョージさん…やっぱり救急車を呼んだ方が良いかしら」
熱がある様なのでタオルで冷やしてはいるもののケロロや冬樹も留守の為、どうしていいか夏美自身気が動転し、分からなくなっているのである。


そんな夏美の目の前で信じられない事が起こった。
その出来事に夏美も最初は何が起きたのか理解できず慌てて目をこすると大きく目を開き目の前で起きた事実を再確認した。
眼の前にいた筈のジョージの姿が消え、その場所には意識の無い状態のギロロが寝ているのだ。
「どういう事?」
夏美の頭はさらに混乱していった。



続きます
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