防衛少女723ちゃん

□「疑惑」
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「いでよ共鳴砲!」
「シューティング!!」
防衛少女723の掛け声と共に強烈な光と音が街中に響き渡る。
「地球大好き、侵略反対!」
ビームをまともに受けた対戦宇宙人は突然笑顔を見せると戦意を喪失し、敗退の印であるバツ印を身体に付けるとその場か去っていった。

最終兵器である『共鳴砲』を手に入れた夏美達は快進撃を続けていた。
当然対戦相手の宇宙人達もただ手をこまねいている訳では無い。
音の影響を受けないように耳をふさいでみたり三対三の戦いで夏美達をかく乱し、共鳴させないように試みたりと色々な手段で応戦を試みたが
僅かでも3人の間に入るとそれぞれの歌の影響を受け始め身動きが取れなくなるようでいまだ対抗策を見いだせないでいるらしい。
「何とかして三人揃わないようにさせねば……」
「『共鳴砲』か……ん、まてよ?」
戦いを物陰から見ていた宇宙人の一人は小声で呟くと小さく頷いた。


「今回も楽勝でしたね夏美さん」
「え?う、うん……」
戦いに勝利す大喜びの小雪が声をかけたが夏美の表情はいま一つだ。
「どうしたんですか夏美さん?」
「あ、ううん、なんでもない」
その様子を心配した桃華が顔を覗かせると慌てて夏美は笑顔を見せ手を横に振った。
『……ジョージさん、今日も来なかったな……』
夏美は二人に悟られぬよう小さく溜息を吐いた。



そんなある日のこと……
日向家の庭先に夏美の少々感情的な声が響いていた。
「『ぞんざいなもの』ってなによ?あたし聞いてないわよ!」
どうやら夏美は西澤家私設軍隊がバトルに参加している侵略宇宙人の負けた時『ぞんざいなもの』に姿を変えられてしまったという事が納得できずギロロに詰め寄っているようだ。
確かに生命は奪われていないかもしれないが桃華の話しではただそこに何かが存在しているという様な感じらしく死んでいるのと同じ様なものだと聞かされたからだ。
勿論真っ先にケロロを問い詰めたがケロロは「命さえ奪わなければ侵略そのものに何の法的問題も無いのであります」と言って夏美の文句を一切受け付けなかったのである。

そこで夏美は次にギロロに事の次第を尋ねる事にしたのである。
『ギロロならきっと本当の事を教えてくれる筈』
何時の間にか夏美はギロロの自分に対する態度に確信ともいえる程のものを持つようになっていた。
パワードスーツを与えたり、最終兵器を与えたりといったギロロの一連の行為を思い返せば夏美に起こっているこの意識は当然のことかもしれない。

だがギロロの答えは夏美の期待に反するものだった。
「命はとられなかったのだろう?その後の事は知らん」
そう言うとギロロはいつものように顔を横に向けた。
「あんた負けたらバツ印が付くだけだって言ったじゃない!桃華ちゃんが泣いてたわよ『あれじゃ死んでるようなもん』だって!!」
ギロロの態度に納得のいかない夏美は声を荒げた。
「バトルロイヤルの敗者にはバツ印だ、侵略相手の事など知らん」
この言葉一つにしてもギロロにしてみればいつもと同じ素っ気なさである。
だが、少し前のケロロとのやり取りにより現在夏美の感情は大波のごとく荒れており素直にギロロの言葉を聞く余裕など持ち合わせていない。
「あたしそんな事聞いてないもん!」
「ギロロの嘘つき!!」
少しばかりヒステリックに言葉を吐き捨てると夏美は家の中に入っていった。

「おかしな奴に変な入れ知恵をされねば良いが……」
「もう少しだけこれが必要か」
夏美が去った後、ギロロはそう呟くとテントの中からそっと『ボクラハミンナイキテイルガン』を取り出した。
「いいかげんにしな」
何処からかクルルの声が聞こえる。
「クルルか?悪いがもう一度だけ使わせてくれ」
ギロロは深い溜息を吐くと声が聞こえる方角に向かって頭を下げた。
「いいやもう限界だぜえ、これ以上そいつを使っちゃなんねえ…さもないと……」
早口でまくしたてるような口調のクルルをギロロの一言が止めた。
「今のアイツにはコレが必要なんだ」
「あんた救いようのない馬鹿だぜえ……勝手にしな」
クルルの声が止み、日向家の庭に静けさが戻っていく。
ギロロは焚火の日を始末するとテントの中に入っていった。



翌朝……
朝食を食べている夏美達はTV画面に注目していた。
朝のニュースで夏美達の活躍が放送されていたからである。
「なかなかでありますなあ」
「街の人達も姉ちゃん達の活躍に感謝しているみたいだね」
画面に映し出されている夏美の活躍にケロロも冬樹も興奮気味だ。
「改めてみるとこの格好結構恥ずかしいじゃない……」
尤も夏美自身は画面に映し出されている自分の姿を客観的に眺める事で恥ずかしさを感じるのか顔を赤らめながら横を向いている。

そんな時、TVから聞こえてきた言葉に横を向いていた夏美も思わず画面に目を向けた。
「それにしても大活躍の『地球防衛少女』達ですが、一つだけ気になる事があるんです」
それは番組にゲストで登場していた評論家らしい男の言葉だった。
「彼女たちが『地球人』としてもあの装備はどう見ても地球の物とは思えないのですが……」
「『西澤グループ製』ではないかとのお話もあるそうですが以前西澤家私設軍隊が宇宙人にボロ負けした事を考えるとありえないような気がするんです……」
「もしかしたら他の宇宙人のテクノロジーを提供されているのかもしれません……問題は」
評論家の次の一言に夏美は勿論、冬樹もケロロも目を丸くした。
「問題はその宇宙人が我々に友好的な宇宙人であるのかそれとも自分達の侵略行為に彼女たちを利用しているのかどうかです……」

評論家の言葉を聞いていた夏美の表情が見る見るうちに強張っていく、その様子はテーブルを囲んでいるケロロと冬樹には凄まじいオーラさえ感じられるほどであった。
「確かあんた達『侵略者』よね……今回のバトルロイヤルにも参加しているし……まさか……」
地の底から湧き上がる様な恐ろしい響きを伴った夏美の声が聞こえる、ケロロは必死になって否定した。
「そ、そんな事な、無いであります」
「何より夏美殿のパワードスーツはギロロが個人的に贈ったものであります、我輩達は一切関係ないのでありますよ」
ケロロの言葉に夏美の勢いがほんの少しだけ止まった。
「……ギロロ?」
夏美の勢いが止まった隙にケロロと冬樹はダイニングから逃げ出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!なんで冬樹まで逃げるのよ!!」
慌ててケロロと共に逃げ出す冬樹に違和感と不信感をおぼながらも夏美はギロロのいる庭先に出て行った。


「……いない、こんな朝からどこに行ったのかしら?」
朝もまだ早いというのにギロロのテントはもぬけの殻だ。
「地下基地かな……」
「ギロロってやっぱりケロン人だし……」
「侵略者だし……軍人だし……」
「きっともっとたくさんあたしに隠し事してるんだ……」
「どうしようあたし……」
「……ジョージさん」
暫くギロロのテントを見つめていた夏美だったが大きく溜息を吐くと家の中に入っていった。
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