防衛少女723ちゃん

□その名は『共鳴砲』!
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「そう言えばギロロは?」
帰宅し、夕飯の支度をしていた夏美はテント前にギロロの姿が見えない事に気付くとリビングでテレビを観ていた冬樹に尋ねた。
「伍長ならテントの中みたいだよ、姉ちゃんより少し前に帰ってきてから一度も外には出てきてないんじゃないかな」
「どこか具合でも悪いんじゃないでしょうね」
冬樹の言葉を聞いた夏美は夕飯の支度を止めると心配そうな顔をして庭へと出て行った。

「ギロロ」
テントの前まで来た夏美が声をかけると僅かの間をおいてギロロの返事が聞こえてきた。
「ん?あ、ああ……夏美か」
その声にいつもの力強さを感じる事の出来なかった夏美はギロロの了解もとらず慌てて入り口を開けテント内を覗いた。
「どこか具合でも悪いの?」
「いや大丈夫だ」
今まで寝袋で寝ていたのであろう、いきなりテントに入ってきた夏美に少々驚いた様子だったが
心配そうな目で自分を見つめる夏美の姿に身体を起こすとわざとらしくガッツポーズをして見せた。
「そう……テントの外でいつもみたいに武器を磨いてないから心配しちゃった」
そんなギロロのしぐさを見た夏美は少し安心したらしくテント内に潜り込むとギロロの横に腰を下ろした。
「そ、そんなに軟ではない、少々疲れたのでテントの中で休憩していただけだ」
すぐ横に来た夏美に焦りながらもギロロはその場に立ち上がり自分が元気である事をアピールして見せた。

「ねえもう晩ご飯食べた?」
「いや、まだだ」
夕飯時に寝ていた事からまだ晩御飯を食べていないのではと思った夏美がその事をギロロに尋ねると案の定ギロロはまだだと答えた。
「じゃあ一緒に食べよ、ギロロの分も用意してあげるから」
「い、いや……俺は」
「遠慮しないの……」
夏美はギロロを晩御飯に誘うと準備の為テントを出ようとした。

その時『ばたっ』と何かが倒れるような音がした。
「……ってギロロッ!」
その音に気付き振り返った夏美の目に映ったのはその場に倒れぐったりとしているギロロの姿だった。
慌ててテント内に戻りギロロの額に手を当てると物凄く熱い。
「……すごい熱、なによやっぱり具合が悪いんじゃない」
「気にするな、大したことではない……」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!ボケガエルちょっと来て!!」
夏美は慌ててリビングにいるケロロを呼ぶとギロロを抱きかかえ地下基地内にあるメディカルルームへと運んだ。



ここは地下基地内にあるメディカルルーム。
「どう?ギロロ、少しは楽になった?」
「あ、ああ……すまなかったな夏美」
あれから2時間ほど経ったであろうか、メディカルルームの設備と薬によりギロロは熱もすっかり下がったようだ。
「もう、目を開けた途端大きな声で叫ぶんだもんビックリしたわよ。」
「ス、スマン」
目を開けた時すぐ目の前……それも数センチの処に夏美の顔を見つけたギロロは思わず大声で叫んでしまったのである。
体裁悪そうに顔を赤くしているギロロにほんの少し安心したのか軽く安堵の息を吐くと夏美はベッド上にテーブルを用意した。
「御雑炊なら食べられるかなって作ってきたんだけど食べられる?」
テーブル上には温かそうな湯気を上げる雑炊が出された。
「頂こう」
ギロロはレンゲを受け取るとものすごい勢いで雑炊を食べ始めた。
夏美はその姿に安心するとベッド横に置かれた椅子に腰を下ろした。

「ねえギロロ」
「なんだ」
雑炊をすすりながら返事をするギロロの具合を気にしながら夏美は自分が最近感じている事を素直に話し始めた。
「ギロロがこんなになっちゃってるのって本当はあたしのせいなんだよね」
「考え過ぎだ」
ギロロは否定するがギロロの体調不良が自分に強敵が来ないようにする為に必要以上にギロロが闘っているからだと夏美は思っているようだ。
「ううんいいの、バトルロイヤルであたしの処に強敵が来ないように先回りで倒してくれているんでしょ?」
「……この間からなんとなくそんな気がしてたんだ」
「・・・・・・・・」
夏美の言っている事は間違いではない、確かにギロロはAクラスやSクラスの敵と多く戦う事で夏美達に強敵がいかないようにしてはいたのだ。
尤もギロロの具合が悪いのは主に何回も『ボクラハミンナイキテイルガン』でジョージの姿になったからなのだがその事を夏美が知る由もない。

ギロロはあえて雑炊を口に押し込み返事をしない。
夏美はそんなギロロに雑炊をよそうと話を続けた。
「ねえギロロ」
「この戦いってこの先どうなっていくのかな?」
「・・・・・・・・」
ギロロは返事をせず黙々と雑炊を食べている。
「最近戦う奴らってなんだか皆すごく強くてソニックショットでもバツが出ないの……」
「このままエスカレートしていって最後は殺し合いになったりして……」
「……あたし殺し合いは嫌よ、最初と話が違うじゃない」
夏美の表情が険しいものになりその瞳にはうっすらと涙が浮かび始めている。
およそ人の生き死に、まして戦争というものに縁が無い少女にとって予想するこれからの戦いが自分にとって耐え難いものであるのだろう。

ギロロは雑炊を食べていた手を止めると夏美の目を見て静かに答えた。
「大丈夫だ夏美、先日この国の自衛隊とかいう軍隊や西澤家の私設軍隊が宇宙人達にやられても命はとられなかっただろ?」
「宇宙条約後の兵器は破壊は派手だが生物の命はとらん、そう定められているからだ」
確かにそんな話を以前にも聞いたことがある、それにケロロ達宇宙人の戦いは派手だが戦いで命までは落としてはいない。
夏美は少しだけ安心するとハンカチで涙を拭った。

ギロロは話を続けた。
「それにお前のパワードスーツには奥の手が与えてある」
「奥の手?何か必殺技とかあるの?」
「まあな」
ギロロの話しでは夏美のパワードスーツには奥の手が与えられているとの事だ。
「なんて言う名?どうやるの?」
「その名は『共鳴砲』だ」
「共鳴ってまさか」
『共鳴』の言葉に夏美は普段ケロロ達がやっているあの『共鳴』を思い出していた。
そんな夏美に向かってギロロは小さく頷いた。
「やだ、あたし絶対に使わないからね!」
その瞬間夏美から断固拒否の声が上がった。
夏美にしてみればケロロ達の行う『共鳴』は何とも滑稽で頼まれても自分がやりたくない事の一つだからだ。
「好きにするがいい、いずれにしてもそれがお前に残された『戦いに勝つための切り札』には違いない」
「もうギロロッたら意地悪なんだから、絶対にやだからね」
「はは…」
折角の奥の手が『共鳴』で成り立つものらしい事を聞いた夏美は憤慨し頬を膨らめている。
そんな夏美が可愛らしくギロロは珍しく声を出して笑顔を見せた。

「……良かった」
その様子を見た夏美が急に笑顔を見せたかと思うと小さな声で呟いた。
「なにがだ?」
その理由が分からないギロロが首を傾げると夏美は食べ終わった茶碗を片付けながら笑顔の訳を答えた。
「ギロロ、少しは具合が良くなったみたい」
「だ、だからたいした事はないと言ったではないか」
「ついさっきまで気を失ってたじゃない、むちゃくちゃ心配したんだからね」
口を尖らせ文句を言う夏美の顔が急接近する。
その表情から夏美が本気で心配してくれていたことがよく分かる。
「し、心配するのは勝手だがそれほど軟では……」
「ギロロ」
照れ隠しに顔を逸らしたギロロがいつもの言葉を言おうとした時、それを遮るように夏美がギロロの名を呼んだ。
「ん?」
「いつもありがと」
慌てて顔を上げると笑顔の夏美が輝いていた。
「い、いや…別に俺は軍人として当たり前の事をしたまでだ」
その笑顔に慌てたギロロは照れ隠しの為にいつものセリフを吐いてしまった。
「うん」
夏美はいつものギロロの態度に小さく頷いたがその表情は何処か寂しげだ。
「じゃ、あたしもう行くね、ギロロはここでしっかり身体を休めなさいよ」
食器を籠に片付けた夏美はギロロの顔を見ようとせずメディカルルームを出て行った。



キッチンに帰ってきた夏美を冬樹とケロロが迎えた。
「お帰り姉ちゃん、伍長の具合はどう?」
「少し良くなったみたい、持って行った御雑炊も全部食べたわ」
そう言うと夏美は空になった鍋を冬樹達に見せた。
「良かったね」
冬樹とケロロもそれを見て安心したようで顔を見合わせて笑顔を見せた。
「……それはそうとね」
「え?なに?」
鍋と食器を流しで洗い始めた夏美に冬樹達から声がかけられた。
ケロロがすかさず言葉を繋げる。
「夏美殿はギロロの雑炊だけ作ると我輩達の夕飯づくりを放り出したまま慌てて地下基地に行ってしまったでありますから」
倒れたギロロに慌てた夏美はずっとメディカルルームでギロロに付いていて
キッチンに帰ってきたと思ったらせっせと雑炊を作り再びいそいそと地下に戻ってしまったのである。
冬樹達の言葉に夏美は自分がまだ夕飯の支度を終わらせていない事を思い出した。
「そ、そうだった!ゴメン!!」
「僕達で続きを作ったから大丈夫だよ、姉ちゃんも冷めないうちに食べなよ」
平謝りをしている夏美をダイニングに連れていくと夏美の分の食事が用意されていた。
冬樹とケロロはもう食べたらしい。
「ありがと、冬樹、ボケガエル」
夏美は二人に手を合わせると夕飯を口にした。



夜も更けて……
此処はクルルズラボ。
ラボのドアが開くとケロロが入って来た。
「隊長か?どうやらおっさんの奴夏美に『共鳴砲』の事を教えたらしいぜぇ」
メディカルルームを監視していたクルルが状況報告をしている。
「夏美殿が共鳴砲を使う事で今回のお話は急展開するのであります」
「すべては時の流れのままにって奴かい?」
「でも日向夏美は日向夏美だぜぇ、アンタの思い描く展開になるとは思えねえな」
「そうなってくれれば……であります」
ケロロはモニターに映し出されている二人の姿を眺めると小さな声で呟いた。
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