防衛少女723ちゃん

□その名は『共鳴砲』!
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「ねえ冬樹、ギロロ知らない?」
日向家に帰った夏美はリビングでテレビを観ていた冬樹にギロロの所在を尋ねた。
いつもなら今時分庭先で焚火をしている筈の姿が見えないからである。
「伍長ならさっきパトロールとか言って出かけたよ」
「それはそうと今日も大変だったね、今までニュースで姉ちゃんや西澤さん達の活躍を放送してたんだ」
冬樹はテレビを消すと冷蔵庫からジュースを取り出し、ソファに腰を下ろした夏美に手渡した。
「もう、どんどん戦いが激しくなっていくし…周りの人たちに迷惑がかかりだしたじゃない?どうなってるのかギロロに聞こうかと思ってさ……」
そう言ってジュースを一気に飲み干すと夏美は大きく溜息を吐いた。

「ギロロがいないんならボケガエルにでも事情を聴いてみようかしら……」
夏美がぼそりと呟いた時、向かい側のソファに腰掛けていた冬樹が急に真剣な表情で夏美に話し始めた。
「その軍曹の事なんだけど」
「?」
「ボケガエルがどうかしたの?」
首を傾げている夏美に冬樹は最近自分が感じている違和感について静かに話を続けた。
「軍曹が軍曹じゃない気がするんだ」
「どういう事?」
手に持っていたジュースをテーブルに置くと夏美は冬樹の言葉に耳を傾けた。

「最近の軍曹はどこからどう見ても軍曹なんだけど……なんだか少し様子がおかしくて……」
「アイツがおかしいのは昔からじゃない」
「そういう意味じゃなくて……なんていうか…僕の知っている軍曹じゃない気がするんだよ」
「別人だって言うの?」
「……よく分からない、もしかしたら僕の思い過ごしかもしれないけど……」
冬樹は少し困ったような表情を浮かべると微かに微笑んだ。
「僕たちの知らない…そう、まるでこれから起こる事を知っている……そんな感じがして仕方がないんだ」
冬樹は時々自分を見るケロロの表情がまるで何かを懐かしむような感じに見えるのだと答えた。
「そう言えばこの間南の島に行った時もあたしの意地悪に涙なんか流してたわね」
確かにこの間、南の島へ行く時に夏美が『ケロロに留守番させる』と意地悪を言った時の
ケロロの反応と様子がいつもと違っていたことを夏美も思い出した。
「ね、なんだか変でしょ?」
「う〜ん、でもやっぱり気のせいじゃないかな」
「そんな事ないよ」
夏美の言葉からも冬樹は少しづつ確信めいたものを持ち始めているらしい。
「じゃ、ボケガエルに直接聞いてみたら?」
「そんなことできないよ」
「それじゃアイツの様子をしばらく観察しましょ、冬樹の言う通りならきっとボロ出すわよ」
「……そうだね」
夏美の言葉に冬樹も納得したらしく大きく頷いた。

「そう言えば今日はあたしが食事当番だったっけ……遅くなっちゃったけど今からお買い物に行ってくるわね」
自分が食事当番だった事を思いだした夏美はソファから立ち上がるとお買い物用のお財布を持ち出しリビングから出て行った。



「く…くそっ……これはどうした事だ?」
此処は日向家からそれほど離れていない場所にある公園の茂み。
突然の眩暈がソーサーで飛行中のギロロを襲い、公園の茂みに墜落してしまったのである。
破損したソーサーを茂みに隠すとギロロは一旦日向家に戻るべく公園の出口へと向かった……己の身体の異変に気付くことなく。


「ジョージ……さん?」
その声に気付いたギロロが振り返ると目の前に夏美がいた。
「ジョージ?」
夏美の言葉に我を見るといつの間にか自分の身体は地球人の姿に変わっていた。
「こ、これは!」
ギロロは自分の身体が勝手に地球人の姿に変わっている事に驚きを隠せないでいた。
少し前までいつものケロン体でいた筈だ、勿論『ボクラハミンナイキテイルガン』など使用していない。
いつの間にか勝手に姿を変えていたのだ。
『もしかしたらこれがクルルの言っていた『欠陥品』か?……』
ギロロは自分の身体を見渡すと小さな溜息を吐いた。

「あ、あの……ジョージさん大丈夫ですか?どこかお加減が悪いのですか?」
気が付くと夏美が心配そうな顔をして自分を見つめている。
夕飯の買い物に出かけた夏美がスーパーへ行く途中、偶然公園の前でギロロ、いやジョージの姿を見つけたのだ。
「あ、い、いえ……大丈夫です、ご心配には及びません」
ギロロは首を横に振ると笑顔を見せた。
「良かったぁ」
その笑顔に夏美の表情が明るくなっていく、その可愛らしい表情にギロロは思わず顔を赤らめてしまった。


「そ、それではこれで……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
あまりこの姿のまま夏美とかかわりたくはない、急いでその場から立ち去ろうとするギロロを必死の表情と声で夏美が止めた。
顔を真っ赤にしながら今にも泣きだしそうな夏美のこんな表情をギロロは見た事が無い、ギロロはまるで金縛りにでもあったかのように身体を固めていた。



人間体のギロロ、いや『ジョージ』と夏美は公園のベンチに腰をかけた。
「あ、あの……い、いつも助けてくれてありがとうございます」
「い、いえ……」
二人は同じベンチに腰をかけながらも少し距離を置き、互いに恥ずかしそうに下を向いたまま会話をし始めた。
「あ、あ、あの……」
「な、なんでしょうか?」
「どうしてあたしの事をいつも助けてくれるんですか?」
「そ、それは……」
ギロロならともかくジョージでは夏美と面識も無く別に親しい訳でもないのだから『どうして?』と言われると返事に困る。
「ジョージさんとは桃華ちゃんの家で行われた舞踏会で初めてお目にかかりました……あの時も一人壁の花になって困っているあたしを可哀想だと思って誘ってくださったんですよね」
はっきりと答えないジョージの姿を横目で見た夏美は少しだけ寂しげな笑顔を見せた。

「私は別にあなたを助けていない」
「それに『可哀想だ』などと思ったことはない」
少し沈んだ表情を見せる夏美の横で急にギロロ、いやジョージはハッキリと夏美を見つめ、低く甘く優しい口調で夏美に告げた。
「貴女の闘う姿に心打たれ『応援』したくなった……」
「それに、あ、あなたをダンスに誘ったのは別にあなたが一人でいたからではない……あなたとどうしても『踊ってみたかった』…ただそれだけです」
「……私の素直な気持ちです」
「ジョージさん……」
その真剣な表情に夏美の瞳は潤み始めている。


「お、教えてください…あたしはこれからどう戦っていけば……」
夏美は思い切ってこれからの戦いについて尋ねた。
いつも自分の戦いを見守ってくれているジョージならきっと何か良いアドバイスがもらえるのではないかと思ったからだ。
「自分を信じて……あなたなら大丈夫……それではいずれまた」
そう言うとジョージの姿をしたギロロは急にベンチから立ち上がり軽く夏美に手を振るとその場から立ち去って行った。
「あっ、ま、待って!」
「……行っちゃった」
「まるでいつでもあたしの傍にいてくれて…温かく守ってくれているような……素敵で不思議な人」
「まだ胸がドキドキしてる、頭がぼ〜っとして身体が熱い……やっぱりこれって『恋』してるって事よね」
「……ジョージさん」
夏美はジョージが立ち去った方向をいつまでも眺めていた。



夏美から逃げる様に公園を出るとギロロは物陰に身を潜めた。
次の瞬間ギロロの身体は元のケロン体へと戻っていった。
「先程と同じ様な眩暈がしたから慌てて夏美の前から姿を消したがやはり元のケロン体に戻ったか……」
「それにしても人間体だと普段言えない赤面物の言葉が口から次から次へと出てきやがる……」
「立場や姿かたちの違いを気にし過ぎているのはむしろ俺の方なのかもしれんな……」
ケロン体に戻った自分の両手を見つめるとギロロは大きく一つ溜息を吐き、夏美に見つからぬよう気を付けながら日向家へと帰っていった。
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