防衛少女723ちゃん

□その名は『共鳴砲』!
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南の島から帰ったケロロは地下秘密基地内のクルルズラボへと来ていた。

「モアの様子はどうだい?」
ドアを開けて入って来たケロロにクルルはモアの容態を聞いた。
「我輩の顔を見て安心したらしく今は良く寝ているであります」
「とりあえず一安心ってとこだな」
ケロロの言葉を聞いて少し安心したのかクルルは振りかえるとケロロに椅子をすすめた。
勧められるまま椅子に座るとケロロはクルルに頭を下げた。
「クルル、今回の事、心配させてすまなかったであります」
「びっくりしたぜえ、モアの奴が開発中のアレから出てきた時はよう……」
クルルがモニターの一つを付けると実験室内の大きな機械が映し出された。

「……」
質問に答えず無言でいるケロロの姿にクルルはモニターを消すと静かに問い質し始めた。
「いったいあんたモアに何をさせてたんだ?」
「俺達の隊長じゃない『ケロロ軍曹』さんよう…く〜、くっくっくっ……」
クルルの言葉に身体が一瞬震えたケロロだったが静かに顔を上げると笑顔を見せた。
「流石であります、時間…いや世界が違ってもクルルはクルルでありますなあ」
「あんたまさか『アレ』を使って来たって言うのかよ!」
「その通りであります、そしてこの世界の我輩『ケロロ軍曹』は今我輩と交代して、我輩の世界にいるのであります」
なんと目の前のケロロは別の世界から来たケロロだと言うのである。
そしていつものケロロは今、代わりに目の前のケロロの世界に行っていると言うのだ。
「おいおいこのマシン『タイムマシン』はまだ開発中なんだぜえ、そんなことが出来る筈ないじゃねえか」
クルルによるとこの機械は『タイムマシン』らしい。
もっともまだ研究中で実際に使えるような代物ではないらしい。

溜息を吐くクルルにケロロは説明を続けた。
「勿論そのままではまだ駄目であります、でも時間と空間を超越できるエネルギーを持つ者の助けを借りれば……」
「…そうかモア……アンゴル族か?」
「…で、あります」
どうやらアンゴル族の力を借りる事で作動する事が可能らしい。
「今回のバトルロイヤルもあんたの仕業かい?」
「否、でも我輩はその為に此処へとやって来たのであります……我輩はもう二度と後悔したくないのであります」
「それじゃ聞かせてもらおうか?本当の事をよう、くっくっくっ…」
「……じつは」
ケロロは詳しい話をクルルに始めようとした。


…が、その時
ラボのドアが強引に開きギロロが入って来たのである。
「おい、クルルは居るか?」
「ギロロ伍長!」

「なんだケロロもここに居たのか…いやそんな事はどうでもいい、クルル頼んであったものは大丈夫なんだろうな?」
「まったくあんたもしつこいなあ、大丈夫だって言っただろ?」
そう言うとクルルはモニターの電源を入れた。
電源の入ったモニターに夏美の姿が映し出されている、どうやら現在街中で対戦中のようだ。
「くっくっくっ…だんだんひでえ事になってきやがったな」
「戦う者同士のランクが上がってきた為か街と一般市民に被害が出始めてきているのであります」
「これはいったいどういう事だケロロ、クルル!最初と話が違うではないか」
ギロロは目の前に広がる破壊された街並みに声を荒げた。
今までの戦いでは街そのものに被害が出る事など決してなかったからだ、最初はそういう約束事だった筈である。

だが今は戦う夏美達の周りは破壊された街並みと物陰に避難し宇宙人と夏美達の戦いを見守る一般市民の姿が目の前にある。
「実はあんたらが南の島に行っている間にAクラス同士のバトルがあってな……」
「あんまり派手な戦いなんで地球人の軍隊やら西澤家の私設軍隊やらも出張って来たんだけどな……」
「本気の宇宙人に未開の星の原住民が向かって行っても意味ないからよう、数分で全滅したぜえ…くっくっくっ」
クルルの説明にギロロは目を丸くして驚いた。
「全滅?……西澤家の私設軍隊が?数分で?そんな馬鹿な!」
「まさか存在そのものまで消されたというのか?バツ印ではなくか?」
驚くギロロにクルルは珍しく真顔で頷いた。
「ああ、バトルロイヤル当初のルールなんかもう何の意味も持たねえ…マジのガチバトルだぜえ、く〜、くっくっくっ」
「ま、俺は最初からこうなると思ってたがね……なあギロロ先輩あんたも最後はこうなるって思ってたんじゃないのか?」
「だから俺に日向夏美のパワードスーツをあんなにも改良させたんだろ?違うかい?」
「そしてこの事は何よりここにいる隊長が一番よく分かってた筈さ…な、隊長?」
「・・・・・・・・」
意味深なクルルの言葉をケロロは聞かないふりをしている。
「どういう事だ?クルル?ケロロ?」
様子が分からずギロロは首を傾げた。
そんなギロロの様子にクルルはまるで話を逸らすかのように話題を元に戻した。
「ま、なんにしてもギロロ先輩に頼まれた事はすべて日向夏美の装備に仕込んであるぜえ……でもよう」
「なんだ?」
どうやらギロロに頼まれたものは既に夏美のパワードスーツに装備してあるらしいがクルルは更に別の話を続けた。
それは『ボクラハミンナイキテイルガン』で地球人の姿になり夏美のピンチを助けているギロロへの忠告だ。
「前にも言ったかもしれんがギロロ先輩が命までかけるほどの価値があの『日向夏美』にあるとは思えねえ……」
「だから少なくとも『ボクラハミンナイキテイルガン』で人間の姿になるのだけはもう止めな……」
「これ以上使い続ければ本当に命を落とすことになるぜえ」
何度もクルルの口からこの話題が出るという事はよほどの事なのであろう、確かにこのところのギロロの衰弱は目に見えて進んでいると言える。
だがギロロはそんなクルルの忠告を無視するかのように振り返るとラボのドアに向かって歩き始めた。
「一応忠告は聞いておく、だがなクルル…命をかける価値があるのかどうかは俺が決める事だ……」
そう言うとギロロはラボを出て行った。
「やれやれ……たまらんおっさんだぜえ」
そう言うとクルルは大きな溜息を吐いた。
「ギロロの言う『夏美殿の価値』はともかく今回のゴタゴタを解決できるのは夏美殿だけなのであります」
「『日向夏美』…か、じゃ隊長話の続きを聞かせてもらうぜえ、く〜くっくっくっ…」
クルルの言葉にケロロは大きく頷いた。



その頃
此処は奥東京の繁華街。
夏美達は今、A級の侵略宇宙人3人組と闘っている最中だ。
「いくぜ『ピーチインパクト!』」
裏状態の桃華、いや『ラグジーピーチ』の腕から強烈なビームが発射され対戦相手の宇宙人は物凄い勢いで地面にたたきつけられた。
「やったぜ……なにぃ!」
桃華が驚くのも無理はない、ビームに包まれたまま地面にたたきつけられた宇宙人は黒こげになりながらも再び立ち上がったのである。
「あれだけやられたのにバツが付かないなんて……きっとランクが高い宇宙人だから攻撃が効いてないんだ」
立ち上がる宇宙人を見た夏美は驚きに目を丸くしていた。
「危ない夏美さん!」
「あっ!」
宇宙人に襲われていた小さな女の子を助け物陰に隠れている小雪、いや『スノー・シャドー』の叫び声に我に返った夏美に宇宙人の鋭い爪が襲い掛かる。
「ウェブライダー、カムヒア!」
寸前のところで宇宙人の攻撃をかわすと夏美、いや『723』は自分のソーサーを呼んだ。
「ソニックショット!」
夏美の声に反応してウェブライダーの左右が展開し、合体すると大きな大砲に変わっていく。
照準を構える夏美に向かって宇宙人達が襲い掛かるが夏美が引き金を引く方が僅かに早かった。
「チェックメイト」
夏美の声と共に轟音がさく裂し宇宙人達は遥か彼方へと飛ばされていった。
「やりましたわ」
「やったね夏美さん」
桃華と小雪が夏美の許へ駆け寄る。
「やった〜ありがとう防衛少女」
物陰に隠れていた市民達も夏美達の許へと駆け寄って来た。
元々今回のバトルロイヤルは基本アンチバリア無しである。
その為、このところのあまりにもあからさまな戦いにより一般市民にも宇宙人によるバトルロイヤルの存在が知られる事となったのだ。
更に地球側の軍隊や西澤家の私設軍隊が宇宙人との戦いに負けた事で地球人達に広がっていく絶望感の中
宇宙人と対等に戦う723達防衛少女の姿は今や一筋の希望であった。
「お姉ちゃん達、ありがとう」
「良かったわね」
助けた少女に笑顔を見せると夏美達はソーサーでその場を離れ、アンチバリアを展開させて身を隠した。
「今日もバッチリ勝ちましたね」
「このまま地球を守り切りましょう夏美さん」
戦いに勝って喜んでいる桃華と小雪の声をよそに夏美の気持ちはどうにも複雑であった。
『ソニックショットで飛ばしてもきっとバツ印は付かなかった筈だ……』
『このままじゃいつか負けるかも……』
『それにどんどん宇宙人達の暴れ方が酷くなっている…バトルロイヤルの前にすでに侵略を開始しているみたいな感じ……』
『どういう事なのかギロロに一度聞いてみなくちゃ……』
夏美達を乗せたソーサーは夏美の中で生まれた疑問も乗せながら日向家へと帰っていった。
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