防衛少女723ちゃん

□「疑惑」
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「いでよ共鳴砲!」
「シューティング!!」
共鳴砲が放たれ対戦相手の宇宙人が倒される。
夏美の迷いは解決されぬまま戦いは続けられていた。
「夏美さんどうしたんですか?最近少し変ですよ」
夏美の様子を心配した小雪が熱でもあるのかと夏美の額に手を当てている。
「大丈夫よ、小雪ちゃん」
夏美は作り笑いでごまかした。

その時、すぐ傍で夏美達に声をかける者がいた。
「見事な戦い方でした」
その言葉に夏美は一瞬ジョージが現れたかと思ったが明らかに声が違う。
「誰?」
身構える三人の前に一人の宇宙人が立っていた。
「私は『ハンゾック星人』あなた達の戦いを拝見させていただきました」
新たな宇宙人の出現に身構える夏美達にハンゾック星人は今すぐに戦う意志が無い事を告げた。
「いえいえ、私も戦いが済んだばかりの者に戦いを申し出る程姑息なまねはしません、今日はご挨拶に伺ったまでです」
そう言うとハンゾック星人は頭を下げた。
「は、はあ…挨拶…ですか?」
夏美達もとりあえず構えを解いた。

構えを解いた夏美達を見たハンゾック星人は笑顔を見せると親しげに話を続けた。
「素晴らしい戦いでした…ですがあなた方の装備はこの地球の物ではありませんね?あまりにもこの星の文明レベルとかけ離れています」
朝見ていたTV番組と同じ事を言われた事に夏美はほんの少しだけショックを受けた。
「貴女方が本当に地球人だったとしてその装備を与えた宇宙人がいる筈です……ん、まてよ……きょ・うめい共鳴…そうだ」
「共鳴を使う宇宙人と言えばケロン人……あなた方のその装備を与えたのはケロン人ですね?だとすれば気を付けることです」
ハンゾック星人はケロンの装備を使用している夏美達に警告をすると言い出した。
「もしそうだとするのであればあなた方はケロン人に好いように使われているだけです」
「なんだとコラァ!」
裏状態の桃華が反発するも構わずハンゾック星人は話を続けた。
「お忘れですか?ケロン人もこの戦いに参加しているのですよ」
「私がケロン人ならば散々他のライバルをあなた方に倒させておいて最終的に自分と戦う時になったら装備の効果を無効にして簡単に勝利を頂くことでしょう」
そう言うとハンゾック星人はそれまでにない程怪しげな笑みを浮かべた。
「ドロロはそんな事しないわ!」
「タマちゃんだって!!」
「……」
小雪と桃華が必死になって否定する中、夏美だけが口を閉ざしたままでいた。
「フフ……どうかな?ではいずれまた」
その様子を見たハンゾック星人は満足げに頷くと三人に背を向けその場を去っていった。

「夏美さん大丈夫ですよ、ドロロもお友達ももう私達とお友達なんですから」
「私もタマちゃんを信じます」
「……うん、そうだよね」
ハンゾック星人がその場を去った後、力強い言葉で装備を提供したケロン人を信頼する小雪と桃華に比べ夏美の言葉は何処か歯切れの悪いものだった……



その日の夕方……
「ギロロにもう一度問い質そうと思ったけど地下基地かしら……」
テントにギロロの姿が見えない為、夏美は思い切って地下基地に降りていく事にした。
ケロロと冬樹の態度も気にはなっていたが冬樹は桃華との用事で、ケロロは夕飯当番で共に外出中の為、後で問い質すことにしたのである。


ケロロの部屋にある冷蔵庫から地下基地に侵入し、暫く通路を移動すると通路の先にモアの姿を見つけた。
「ねえモアちゃん」
慌ててモアに声をかけたが聞こえなかったらしくモアはそのまま通路を横切っていく、夏美は駆け足でモアを追いかける事にした。

「モアちゃ……」
モアの入った部屋に後から入った夏美は部屋の中にある大きな機械に目を奪われた。
「な、夏美さん!どうしてここに?」
モアが驚きの声を上げている。
「モアちゃんに相談したい事があって……それよりこれなに?」
夏美はモアの質問に答えながらも目の前の機会に目が釘付けになっている。
「え…と…これはその……」
どうやら言いにくい事らしくモアは困っているようだ。

「タイムマシンさ」
機械の陰から声がしたかと思うと作業でもしていたのか隙間からクルルが現れた。
「タイムマシン?未来に行ったり過去に戻ったりするってアレ?」
「クルルさん、良いんですか?って言うか秘密厳守?」
半信半疑の夏美とクルルの言葉に驚いているモアに目線を合わせる事無くクルルは説明を始めた。
「そうタイムマシンさ、もっともまだまだ研究中で使い物にはなんねえけどな」
「惑星単位の時間を止めたりするのなんかは実用化されていても自在に時間を行き来する事はまだ叶わねえ、研究者のロマンって奴さ、く〜っくっくっくっ」
クルルは満足げに笑い声を上げている。
「もし実現したとして侵略なんかには絶対使わせないからね」
夏美はいつも通り侵略使用に釘を刺した。
「あんただっていつか来るさ『過去をやり直したい』って思う時がさぁ、く〜っくっくっくっ」
クルルの意味深な笑い声が部屋に響く。
「あたし過去は振り返らないことにしてるの、だからこんな機械必要な……」
夏美は鼻息荒く答えたがその言葉が終わらぬうちにクルルがいつもと異なる感じの声で夏美の言葉に割って入った。
「お前、今までどれだけ生きてきたつもりでいやがる」
「・・・・・・・・」
クルルのいつになく真剣な、そして脅しとも取れる言葉に夏美は思わず口を閉じた。
ふと横にいたモアを見ると何故か大粒の涙を流している、その場の雰囲気を変えたい夏美は話題を変える事にした。

「ギ、ギロロは?地下基地にはいないの?」
やっとの事で口に出た言葉でギロロの所在を尋ねると夏美は大きく息を吐いた。
「日向夏美、相変わらず分かってね~な、俺にものを尋ねるなら見返りがいるんだぜえ、く〜っくっくっくっ」
クルルのねばりつくような笑いが夏美に絡みつく、夏美は身震いをするとモアに尋ねた。
「モ、モアちゃん、ギロロ知らない?」
「ギ、ギロロさんですか……モ、モア知りません」
モアは慌てて返事をするとクルルに工具を手渡した。
「そう……じゃあいいわ」
夏美はその場の雰囲気もあって部屋から急いで立ち去った。
「クルルさん、これでよろしいのでしょうか?」
「どのみちタイムマシンの事は気づかれる事だしな……何より今はおっさんに合わせる訳にはいかねえからよう」
「……そうですね」
クルルの言葉にモアは少し悲しげな笑顔を見せた。



此処は日向家リビング
冬樹もケロロもまだ帰宅していないようだ。
日向家に戻った夏美の中にギロロは元よりケロロや冬樹、モアに対しても大きな不信感が生まれていた。

『ギロロは自分に何か隠している』
『朝の様子ではケロロばかりか冬樹まで自分に何か隠し事をしているようだ』
『クルルはともかくモアちゃんまであたしに言えない事があるらしい』
『今までは少なくともこんな事無かった筈だ、特に冬樹までがあたしに何か隠し事をするなんて……それもこれも『防衛少女』になってからの事だ……』

夏美の中に大きな決心が生まれた。
「あたし……あたし『防衛少女』やめる……」
「もう変身しない……絶対にしないんだから」
夏美は腕に付いているブレスレットを外した。
「夏美、お前がそう思うのなら俺は止めない……」
ブレスレットのナビが呟いた。
「やだ…もう……こんな時までギロロの声で話しかけないでよ」
眼の前の景色が歪んでいく……
夏美は大粒の涙をこぼしていた。
「……スマン」
夏美は自室に戻るとブレスレットを箪笥の中に片付けた。
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