防衛少女723ちゃん

□夏のお嬢さん
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パワードスーツ姿の夏美は破壊の限りを尽くされ廃墟と化した街の中、茫然と一人立ち尽くしていた。
その手に握られているのはギロロが愛用しているベルト…
だが彼女のそばにベルトの持ち主であるギロロの姿は無い。

夏美はしばらく虚ろな目つきで「ギロロぉ…」と何度も呟いていたが突然大声で泣きわめくとその場に崩れ落ちた……


「嫌ぁぁぁ!」
夏美は大声をあげながらベッドの上で飛び起きた。
「…夢?」
どうやら先程の光景は夢の中の事だったようだ、辺りを見渡すといつもと同じ自室の風景が目に入ってきた。
時計の針はいつも夏美が起きる時間の少し前を指している。
「そうだ、ギロロ!」
夏美はベッドから飛び出ると慌ててベランダの窓を開け庭先を覗いた。
庭先におかれたテントの前にギロロの姿が見える。
何時も通り朝早くから愛用の銃を磨いているようだ、夏美は安堵の息を吐くと部屋に戻っていった。



「…どうしてあんな夢見ちゃったんだろう?」
ダイニングに降りた夏美はトーストを一口かじると溜息を吐いた。
「どうしたの?姉ちゃん…そういえばさっきもなんだか悲鳴を上げてたみたいだけど」
「別に何でもないわ…ただ変な夢見ちゃってさ……」
「変な夢?」
その様子を心配した冬樹が顔を覗き込むが夏美は作り笑いをすると「大丈夫よ」と言って夢の中身についてはごまかした。

『折角名前を聞いたんだし、ジョージさんの夢を見ようと思ってたのに何であんな夢……あ、そうだ!』
つい先日、夏美は最近自分を助けてくれる金髪の紳士の名前を知る事ができた。
自分のピンチに颯爽と現れ、救いの手を差し伸べてくれる…
そしてどうやら夏美好みの顔立ちらしい、夏美は最近すっかりそのジョージという男に熱を上げているのだ。
『そういえばおばあちゃんから聞いたことあったっけ…「夢で見たいものの絵や写真を枕の下に置いておくと良い」って…』
「そうよ写真よ!今度会ったら写真撮らせてもらおうっと!!」
夏美は思わず大声をあげると握りこぶしで立ち上がっていた。
「ゲロッ?」
「ね、姉ちゃん?」
「あ、あは、あはは…」
目を丸くして自分を見る弟達に気付いた夏美は照れ笑いをしながら椅子に座り直した。



「そういえば姉ちゃん、明後日の日曜日だけど何か用事ある?」
「え?日曜日?特に無いけど?」
朝食を食べ終えた冬樹が夏美に日曜日の予定を尋ねてきた。
特に予定が無いと夏美が答えると冬樹は日曜日に西澤桃華が所有する南の島へ行くのだと話し始めた。
「実は西澤さんから久しぶりに南の島へ招待されてるんだ、だからお姉ちゃんもどう?」
「え、南の島?いくいく〜!でもママの許可とらなくちゃ…」
二つ返事で答えた夏美だったがそのような遠方に母親である秋の許可を取らずに行ける筈もない。
そんな夏美に冬樹は既に秋から許可を得ている事を伝えた。
「それなら大丈夫だよ、西澤家の敷地だしポールさんもいるからってもうママからO.K.もらってるんだ」
「そうなんだ、日曜日ね?うわ〜この前買った新しい水着着ようっと」
母親の許可が出ている事を知った夏美は大はしゃぎだ。

「我輩も楽しみであります」
冬樹の隣にいたケロロも上機嫌だ、どうやら冬樹達と一緒に行くらしい。
「『我輩も』ってあんた達も行くの?」
「当然であります、我輩達はタママ二等から招待を受けているのであります」
「僕からも西澤さんに頼んだんだ」
「冬樹ったら」
ケロロ達がセットでは南の島で冬樹と二人きりになりたいという桃華の希望も叶わぬだろう……
冬樹もそれくらい察してあげればよいものを…鈍感な我が弟の態度に夏美は桃華の心中を察すると切なげに溜息を吐いた。

とはいうもののそれを言ったら自分だって同じだ、冬樹と二人きりになるチャンスを潰している事に違いはない。
ならばこの際言葉に甘えて思いっきり南の島を楽しむとしよう、夏美は以前行った南の島の光景を思い出すと期待に胸を膨らめた。


「そう……でもあんた日曜日は掃除当番じゃない、サボんないでよね」
急に夏美がケロロに対し、壁に貼ってある当番表を指さすとケロロが日曜日の掃除当番だと告げ居残りで掃除をするよう言い出した。

「家に誰もいないのでありますから汚れたりしないのであります」
確かにその日一日日向家には誰もいない、秋も締切間近で帰ってこれない時期だ。
「良いじゃない姉ちゃん」
「ダ〜メ、当番なの!」
ケロロをかばう冬樹の声も聞かず夏美はそっぽを向いたまま舌を出している。
「我輩だって南の島へ行きたいであります!」
ケロロの声が次第に大きくなっていく。
「当番は当番なの!」
実は南の島に行くことが楽しみな夏美はわざとケロロに対し意地悪な言葉をかけたのだ。
もちろん本当に居残り掃除などさせる気など無い。
『ここまで言えばボケガエルの事だ、思いっきり駄々をこねるだろう』
そう思った夏美は応戦の為身構えた。


だがケロロの反応は夏美の予想と異なるものだった。
「…いつだって……」
「いつだって夏美殿は一方的で……」
ぽつりと呟くと大きな目いっぱいに涙を溜めていた。
「姉ちゃん軍曹がかわいそうだよ」
「な、何も泣く事ないでしょ…わかったわよ、明日あたしの当番だからあんたも手伝いなさい」
「了解であります…それじゃ我輩は部屋に戻るであります、お皿は後で洗うので流しに置いておいて欲しいのであります」
そう言うとケロロはダイニングから出ていった。
「姉ちゃんあんまりだよ、軍曹ったらすっかりしょげちゃって」
「ああ言えばいつもみたいにダダこねると思ってからかっただけなのよ……なのにアイツったら目に涙溜めちゃってさ、馬鹿みたい」
夏美の言葉に冬樹は小さく頷くと最近ケロロの様子がどこかおかしいのだと言い出した。
「そういえば最近の軍曹ちょっと変なんだ」
確かに先程の涙は辛くて泣いているでも怒っているでもなく、夏美には寂しさの中にも感激しているような、何かを懐かしむような複雑な表情に見えた。
「え〜、気のせいでしょ?さ、学校行くわよ」
「う、うん」
気のせいだと思いながらも夏美自身ケロロの涙が気になったのであろう、流しの食器を当番であるケロロの代わりに洗うと冬樹と共に学校へと出かけていった。



ここは日向家地下にあるケロロ達の秘密基地。
モアはクルルに頼まれた部品を探す為にラボの奥にある工場へと来ていた。
「…どこにあるのでしょう…あれ、珍しいですね隣の部屋が空いています…っていうか興味津々?」
部屋の中には頼まれた部品が見当たらない、モアは隣の部屋も探すことにした。
隣の部屋は特にクルルが大切に研究している物が置かれている、普段はカギがかけられ誰も入ることができない部屋なのである。

モアは好奇心から恐る恐る部屋の中へと入っていった。
「これ何でしょう?」
部屋には何やら大きな機械が置かれ、その中央にはまるで玄関ドアのようなものがついている。
「…ドア?」
モアがドアに近づいた時、どこからか声が聞こえてきた。
「…モアちゃん」
「どなたですか?」
「良かった、モアちゃんにはあたしの声が届くのね…お願いがあるの」
「え?あなたまさか……」

モアはその日を境に日向家および地下基地から姿を消した。



日曜日の朝
「いっくわよ〜南の島〜!」
朝から夏美は大はしゃぎだ。
「夏美さ〜ん、後で一緒にビーチバレーしましょうね」
「うん」
ロードランジャーの発令所後ろにある客席でドロロと共に御呼ばれした小雪と二人、大騒ぎをしている。
前の席には冬樹と桃華が並んで座っている、これだけは桃華としてどうしても譲れない事らしい。
当然タママはコクピットに自分の席がある。
「西澤さん、いつもごめんね、ありがとう」
「いいえ、私も楽しみにしていました」
冬樹がお礼を言うと桃華は顔を真っ赤にしながら手を横に振った。

そんな桃華のところにケロロは礼儀正しくも挨拶に訪れた。
「桃華殿、この度は我輩たちまでお招き感謝するであります」
「いいえ、ケロロさん達は大切なタマちゃんの上官ですものね…それに私もケロロさん達の潜水艦に乗ってみたかったのですわ」
「こいつなら南の島まであっという間であります、向こうでたっぷりと遊べるのでありますよ」
桃華とケロロが談笑していると後ろから夏美がケロロに声をかけた。
「あれ?ボケガエル、クルルはともかく『モアちゃん』は?」
どうやらモアの姿が見えない事を心配しているようだ。
「モア?モア殿でありますか?」
モアの名に一瞬ケロロの表情が強張ったがすぐ元に戻ると今回不参加であるのだと答えた。
「……モア殿は今ちょうど実家に帰っているのであります」
「…そうなんだ」
ケロロの答えに納得すると夏美は席に戻っていった。


「まったくいつもいつもケロン軍の装備を遊びに使いおって…」
ロードランジャーの操舵席横で毎度この潜水艦が本来の目的外であるレジャーに使用されることにギロロは腹を立てているようだ。
本来ならば尤もな事である。
そんなギロロの耳元に近づくとケロロは後ろの客席で楽しそうにしている夏美を指さし小声で囁いた。
「まあまあギロロく〜ん、なんでも今回夏美殿は新しい水着らしいでありますよ」
ギロロの顔が茹で上がったタコのように真っ赤になっていく……
「……ま、まあたまにはいいだろう」
コホンと咳払いをするとギロロは操舵席に戻っていった。
「本当にわかりやすい男でありますな…もっと自分に正直に、そして積極的になればいいのであります」
背中を向け、ロードランジャーの操舵席に着くギロロの後ろでケロロは優しい口調で呟いていた。


ケロロはロードランジャーの艦長席に腰を下ろすと発進の指示を出した。
「それでは出発するのであります…いざ南の島へレッツゴーであります!」
「ギロロ、ロードランジャー発進!」
「了解、目的地南の島『西澤リゾートアイランド』!」
ギロロの操船によりロードランジャーは海底トンネル通り抜け一路南の島へと向かった。
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