防衛少女723ちゃん

□恋する乙女は防衛少女!
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西暦200X年
地球は今、未曽有の危機を迎えようとしていた…


これは破壊と絶望の中、最後まで真実の愛と希望を信じた少女の物語である。



ここは都心から西側にある奥東京市。
この街に一軒の母子家庭があった。

「ごめんね夏美、今日明日と二日間帰れないと思うの、吉崎先生明日締切なの…最近物騒だから戸締りとか気をつけてね」
玄関先では仕事に出かけようとしている母親の秋が留守中の心配をしていた。
「大丈夫よママ、心配しないで」
そんな秋に中学二年生になる長女の夏美は大丈夫だと笑顔を見せた。
「この家には軍曹たちもいるしね」
「ご心配無用であります」
すぐ横にいた中学一年生で長男の冬樹も笑顔を見せると横に居る自分のひざ丈ほどの生物に目を向けた。
一見ごく普通の家庭に見える日向家だが他の家庭と大きく異なる点、それは宇宙人と生活を共にしていると言う事である。

ガマ星雲第58惑星ケロン星から地球を侵略に来た宇宙人、それがケロロ軍曹をはじめとするケロロ小隊の5人である。
先行工作部隊長のケロロ軍曹が潜伏中日向家で夏美達に発見された事から本隊は撤退、ケロロ小隊だけが地球に取り残される結果となり
ケロロは日向家に居候をする形で日向家の家族と生活を共にする形となったのである。
そのせいか最近は日向家の人々、特に長男の冬樹とは強い友情で、長女の夏美とも出来の悪い(?)弟が出来たかの様な家族同然の扱いを受けている。
「そうだったわね、ケロちゃん達が居てくれるんですものね」
秋はケロロの存在を思い出すと笑顔で頷いた。

そんな秋に夏美は少し言いにくそうに、それでいて物をねだるかのような甘えた声で話しかけた。
「ねえママ、明日なんだけど」
「夕方駅前のサテライトスタジオで623さんの公開生放送があるの…さつき達と見に行ってもいい?」
どうやら夕方から駅前のデパートで行われるラジオの公開生放送を見学に行きたいらしい。
ちなみに623というのは奥東京ラジオの人気DJをしている高校生でその容姿や放送で語られるポエムが評判となり
今ではまるでアイドルのような人気を誇っている。
夏美もこの623の大ファンで623の放送は欠かさず聞き、各種関連グッズも買い集めるほどだ。
「遅くなるの?」
「そんなには…」
秋の言葉に夏美は言葉を濁らせた、どうやら少し遅くなるらしい。
「ちょっとは遅くなるのね」
「…うん、ダメ?」
「いいわ、気をつけていってらっしゃい」
いつも家の留守番と家事ばかりさせている娘の願いを秋は承諾する事にした。
「ママありがとう」
母親から了解の出た事に夏美は大喜びだ、両手を合わせると秋に飛びついた。


「それじゃあ行ってきます、夏美も冬樹も学校に遅れないようにね」
母親の秋は夏美達に手を振ると愛用のオートバイで出かけていった。
「冬樹、あたし達も行きましょ」
「うん」
見えなくなるまで出かける母親を見送ると夏美は自分達も早く学校へ行こうと弟の冬樹を急かした。
「ボケガエル、留守番頼むわよ…あ、そうだ」
「了解であ…って、夏美殿?」
すぐ後ろにいたケロロに留守番を頼みかけた夏美は何かを思い出したらしく慌てて庭の方へと走って行った。
日向家の庭にはもう一人ケロロ小隊の隊員が生活していた。
名をギロロと言い、起動歩兵で階級は伍長、ケロロ小隊の中でも特に軍人気質で頭が固い。
そのせいか家の中で日向家の人達と一緒に生活する事を良しとせず、庭先にテントを張りながら生活しているのである。

そんな中、夏美とは話が合う部分もあるらしく最近はテント横にある焚火の前で仲良く腰を掛けながら話をしている事が多いようだ。
夏美に言わせるとギロロの焼く焼き芋はとにかく絶品らしい。
「ギロロ、学校行ってくるね」
「ああ、落とし穴には気をつけろよ」
「もう、そんなのあるわけないじゃない…ふふ、いってきま〜す」
夏美はギロロに笑顔で手を振ると冬樹の待つ玄関へと戻って行った。



夏美達が学校へ出かけて数分後。
庭先で銃を磨くギロロの耳にケロロの声が聞こえてきた。
「ギロロ伍長」
「ケロロか?」
ギロロは慌てて通信機を取り出すとケロロの名を呼んだ。
「例の件でこれから会議を行うであります」
「分かった、今いく」
用件を聞いてその場から立ち上がるギロロに通信機とは別の場所から声が掛かった。
「で〜も〜、その前にお洗濯物を干すのであります」
「な、なんだお前…後ろにいたのか!」
実はケロロの声は通信機から出ていたのではなくギロロのすぐ後ろから直接話しかけていたのである。
驚いて目を丸くするギロロに洗濯かごを渡すとケロロは物干しに洗濯物を干し始めた。
ケロロは日向家に同居する代わりに家事を手伝う事になっているのである。
「ほらギロロも手伝う手伝う」
「…ったく」
侵略先の原住民の洗濯物を嬉々として干している隊長の姿に溜息を吐くとギロロも仕方なく手伝いを始めた。



ここは日向家地下にあるケロロ小隊地下秘密基地。
「……で、あの件は本当なんだな?」
「本当であります」
ギロロの問いにケロロは静かに頷いた。
「まさか本当だったとはな」
頷くケロロの姿にギロロは溜息を吐くと座席の背もたれに力なく寄りかかった。
ケロロは作戦室に集合した小隊各員に向かって詳細を説明した。
「銀河辺境にある未開の惑星『地球』を参戦した星の代表総当たり戦で戦わせ、勝者を決め支配権を決定する…」
「水面下で小競り合いを続けながらも長い間どの星からも侵略されなかった地球の現状を打破する為だそうであります」

「…噂じゃ得体のしれない陰の力が動いているって話だぜえ」
作戦参謀のクルル曹長がぼそりと呟いた。
「陰の力?」
クルルの言葉にギロロが反応するとクルルは話を続けた。
「あくまで噂さ…だがよ考えてみな」
「俺達宇宙人の活動は侵略に限らず基本アンチバリアで地球人には見えないようにする……それがルールだ」
「だが今回はアンチバリアなしで直接地球人に対して侵略活動を行い、同時に侵略しようとする宇宙人同士で戦わせる…」
「それを絶対権力の宇宙警察でさえ止めようとしねえ……嫌な予感がするぜえ」
「未開の地の住人に拒否権がないとはいえ地球人がこの事知ったらどう出るかねえ…くっくっくっ」
クルルの話しからも今回の一件が今までの常識からかなり外れたものである事には違いない。
クルルの言う噂もまんざらデタラメとは言い切れないのだ。
「…夏美」
「モモッチ…」
「小雪殿」
現在小隊各員にはそれぞれパートナーとも言える関係の地球人が存在する。
ギロロに取って夏美がそれにあたる為、ギロロは真っ先に夏美を思い浮かべると人に聞こえぬほど小さな声で名を呼んだ。
どうやら他の隊員たちも同様のようだ。
そんな場の雰囲気を変えるかのようにケロロは一つ咳払いをすると今回の件に対する小隊の立場と役割を告げた。
「いずれにしても今回の件、ケロン星の代表は我々ケロロ小隊が受け持つのであります」
「各人今回の戦いに勝利する為、心して戦い最後の一兵になろうとも奮闘努力せよ!」
「了解」
「んじゃいっちょ景気づけにアレいっとく?」
ケロロの言葉でケロロ小隊恒例行事が始められた。
「ゲロゲロ…」
「タマタマ…」
「ギロギロ…」
「クルクル…」
「ドロドロ…」
まるで掛け声の様にも聞こえるこの掛け合いは『共鳴』と呼ばれ互いの一体感を高め士気向上を図るケロン人独特のものらしい。
「以上解散」
共鳴が一通り終わるとケロロは解散を命じた。

「なあクルル」
「あん?」
立ち去ろうとするクルルに後ろからギロロが声をかけた。



その日の夕方
日向家の庭には夏美とギロロの姿があった。
「うん、やっぱりギロロのお芋は最高ね」
「それは何よりだ」
おいしそうに焼き芋を頬張る夏美の姿を見たギロロは赤い顔をさらに赤くした。
「今日はお洗濯まで手伝ってくれたんだって?ボケガエルに聞いたわ、ありがとギロロ」
「い、いや…」
「それにギロロがお庭に居てくれれば泥棒だって心配いらないし……本当に助かるわ」
上機嫌でさらに一口芋を頬張る夏美を呼び止めるかのようにギロロは夏美の名を呼んだ。
「夏美」
「なあに?」
芋を口から放して不思議そうな顔をしながら自分を見つめる夏美から目を逸らせるとギロロは不機嫌そうな声で話し始めた。
「お前、俺達がこの地球を侵略しに来た宇宙人だと言う事を忘れてはいないか?」
「なによ急に…別に忘れてなんかいないわよ」
「もし俺達が本気で侵略を始めたらお前はどうする?」
「え?」
ギロロの言葉に夏美は思わず手に持っていた焼き芋を膝の上に落とした。
「他の星の奴らが大挙して侵略に来たら…その時お前はどうするんだ?」
「き、決まってるじゃない…その時は全力で阻止してやるわよ」
夏美は声を荒げると乱暴に拾い上げた焼き芋を口に入れた。

「ふ…そうだな」
むしゃむしゃと乱暴に芋を食べる夏美に笑顔を見せるとギロロは何やら小さな箱を転送させた。
「夏美……これを」
手渡された夏美が箱のふたを開けると小さなスカルマークの付いた可愛らしいブレスレットが現れた。
「なにこれ?ブレスレット?」
「新しいパワードスーツだ、お前にくれてやる」
「パワードスーツって……どういう事?」
ブレスレットを手に目を丸くしている夏美にギロロはブレスレットで自らを守れと言い出した。
「お前はそれを使って全力でお前とお前の愛する人…そして地球を守れ」
「ギロロは…ギロロはいつもみたいにあたしを守ってくれないの?」
これまで夏美が本当に危機に陥るとギロロがそれを助けていた。
そんな事が何度となく繰り返されるうちに夏美自身ギロロが自分を助けてくれるものだと信じていたらしい。
「…俺も…俺も侵略者だからな」
「なによ、思い出したように急に『侵略者』『侵略者』って馬鹿じゃないの!」
どうやらしつこく『侵略者』と言う言葉を使う事が気に入らなかったらしく夏美は涙目になりながら興奮したように声を荒げた。
「夏美!」
「なによ!」
「もし…もしも俺と戦う事になったら迷わずここを狙えよ」
ギロロは自分の心臓のあたりを指差した。
「もうやだ!馬鹿みたい!ギロロなんか嫌い!!」
夏美はまるでヒステリーでも起こしたように大声を上げると立ち上がり、そのままリビングの窓から家の中へと走り去って行った。
「……これでいいんだ…これで」
ギロロはそう呟くと力なくその場に腰を下ろした。


その日の夜
ここは夏美の部屋。
夏美はベッドの上でうつ伏せになりながら何やらブツブツと呟いている。
「もう何よギロロったら『侵略者』『侵略者』って…感じ悪いんだから……」
どうやら夕方のギロロとの一件が原因らしい。
「…でも」
「…あいつもボケガエルもホントは侵略者なんだよね」
「…パワードスーツかぁ」
夏美はギロロに貰ったブレスレットを手に取ると溜息を吐いた。
「…あ〜、もう今日は623さんのラジオもないし早く寝よ!」
夏美の部屋の明かりが消えた。
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