リカレント・パルプフィクション

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「さあ、行きましょう」

骸は当然のような素振りで、オレに手を差し出す。
恥ずかしいな、と思いながらもオレも嫌な気どころか寧ろ嬉しくて、
そっと握り返す。

地下駐車場までのエレベーターの中で盗み見た骸の、ビスクの様な
きれいな横顔は穏やかで。
視線に気付いた彼が長身を屈めてキスをしてきた時、何故だか
泣きたいような、切なさが込み上げてきたのを必死で堪えた。

ずっと求めていたものが、やっと手に入ったような。

温かな幸せ。


(今度こそ、離すな・・・)


「!」


また、声がした。

キョロキョロと辺りを見回すと、骸は不審げにオレを庇うように立ち、

「どうかしましたか?」

耳元で囁く。

「声がまた聞こえただけ。気のせいだと、思う」

それを受けて、骸は周囲に殺気を放って警戒した。

「早く、車の中へ」

骸に守られたままリムジンの後部座席に乗り込むと、彼も続いて隣に
乗り込んだ。

「何かありましたか?骸様」

既に乗り込んでいた運転手の抑揚のない声がマイク越しに聞こえた。

「何でもありませんよ、千種。早く出してください」
「・・・はい。わかりました」

柿本千種は黒曜戦の時から変わらず、骸には従順だった。
ボンゴレの身内として与された今も、骸を通さないと動くことはない。
それは城島犬も同様で、骸は任された任務を彼らに割り振ったり
補佐させたりしてうまく回しているようだった。
でもまさか、運転手なんて役目までさせてるなんて知らなかったから、
それには些か驚いた。

広い敷地を抜けて公道に出ると、行き交う人々が目立ち始め、
楽しそうに歩くその様子にふう、と気持ちが軽くなる。

マフィアなんてなりたくないってずっと思っていた。
それは今もあまり変わっていなくて、誰かを貶めるとか
傷つけるとか、そんな事までして何が得られるのかと思う。

「あの子供も、そこのお年寄りも、皆あなたが守ってるのですよ」

オレの考えてることを察したのか、骸が呟いた。

デジャヴュ。

なんだか、前にもこんなことがなかっただろうか?
頭を掻きながら尚も考えていると、骸がまた手を取ってきた。
そのままフイ、と窓の外に顔を背けてしまう。
そんな骸の素振りがなんだか可愛く思えて、難しいことを考えるのは
今はやめておこうと思った。
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