リカレント・パルプフィクション

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「・・・起き上がれない」

うっすらと頬を染めてそう答えるとクッションに
顔を埋めてしまった。
夕べのことを思い出しているのだろう。
ジョットがこんな顔を見せるのはきっと、僕だけ。
そうでなければ耐えられない。
嬉しくなってまた笑うと、ジョットが恨みがましい表情で
睨み付けた。

「飲ませろ」
「・・・喜んで」

僕が水を口に含むのを、ジョットが眩しそうに見ている。
喉元が物欲しげにごくり、と鳴った。
その様子が愛おしくて、口角を上げて目を細めれば、
ジョットは僕の頬に手を添える。

「・・・早く」

切なげに催促する彼に甘い痺れを感じながら、僕はそっと
上体を傾げて唇を重ねた。
薄く開かれた口に潤いを送り込む。

こくりと飲み込む音がして唇を離すと、もっと、と嘆願
するような囁きが溜息と共に触れた。
彼が望むままに、彼が満足するまで。
僕は何度も水を運ぶ。
神聖な儀式であるかのような繰り返しの行為の中で、
次第に熱が生まれはじめた。

くちゅ、と水音を含んだ音をわざとたてて彼の下唇に残った
水滴を吸い取る。
舌を僅かに差し出せば、彼もまた絡め取る。
水を摂取してた筈なのに、渇きを訴えるかのような表情。

「スペード・・・?」

不意に体を離しグラスを手に立ち上がった僕を、ジョットは
不思議そうに見上げた。

「・・・そんな顔しないでください。今日はこれから幹部会議
なのですから、その後で・・・」

そう言ってクローゼットを開け、彼の着る服を手に戻ると
むっとしたような、どこか泣きそうな表情の彼がブランケット
からのそりと起き上がった。

かわいい人だ。

思えば、最初は研究対象として興味を持ったはずだったのに、
気付けば誰にも取られたくなくて、誰よりもそばにいたくて、
煙草や酒なんかよりもよっぽど必要不可欠で。
橙色の炎を見た時から、僕の心も火が灯ったように熱い。

上辺だけの人間関係に何の不自由も感じていなかった僕が
唯一、彼だけは彼でなくてはならないと感じた。
代わるものがない絶対の存在だった。
だから、俺もだと囁かれた時は本気で死ねるとまで思った。

僕は、ジョットの為なら何でも出来る。

そう、命だって――――――。
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