リカレント・パルプフィクション
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何故、こんな感情が芽生えるのだろうと
いつも不思議でならない。
自分自身のことでさえどうでもよく感じているのに
朝目を覚ました瞬間にはもう、その存在が支配する。
長い睫毛が物憂げな瞳を隠し、柔らかな朝日を
受けて輝いている。
白いシーツには彼の蜂蜜色の前髪が素直に流れ、
かすかな寝息に靡いた。
起こさないように、そっとベッドを降りようとした
その時、シャツの袖をきゅ、と掴まれる。
「どこへ、いく」
まだ掠れた声で咎めるような呟きが聞こえる。
「おはようございます、ジョット」
答えずに挨拶を返した僕に、気怠るそうに少し頭を
上げて眉間に皺を寄せた。
思わずくすりと笑みを零せば、その皺は更に深まる。
「水を、取りに行くだけですよ」
「・・・そうか」
クッションを手繰り寄せ、頭を置きなおした彼は
目だけで僕の動きを追った。
ベッドの足元にレースのクロスが敷かれた硝子の
円卓があり、そこにはワイン用のデキャンタがひとつ。
香水の瓶のような凝ったデザインで、贈り物として
ジョットに寄せられたもののひとつだった。
丁寧な手つきでそれを持つと、グラスに水を注ぐ。
そう、中身はワインではなく専らミネラルウォーターだ。
ベッドに戻り浅く腰掛け、ジョットに差し出す。
「喉、渇いてるでしょう?」
榛色の憂えた瞳がグラスをちらり、と見てすぐ伏せられた。