02/12の日記

03:57
【アカタリプシー】※Naoかみバレンタイン【夢、所詮妄想】
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Naoかみへのお題は『恋愛ごっこ、してみませんか?』です。 http://shindanmaker.com/392860

※Naoかみ風味ですが恋愛的矢印がお互いに向かってるのか謎です。




 多いね、止めてしまってる子。
 隣で独り言みたいにNaotoが言う。急に話し出したから思わず、その人形みたいな顔を見上げてしまった。睫毛も長い、鼻筋の通った、まるで人形の様な人間。もしくは人間みたいな人形の顔を視界に入れてつい眉を寄せてしまったが、当の本人はそんな俺を見ずに自分の手元に視線を落としている。返事なんて期待してない、本当に独り言だったんだろう。
 手元にあるのは、今まさに湯煎している最中のチョコレートとそれが入っているボウル。ここは夢の中でも珍しく使える、キッチンらしき場所だ。
 混ぜて溶かせと俺が言った通りに、渡したヘラを使って潰し溶かしていくその手付きはぎこちない。元々インプットされてないとか作業しながら構築するとか、意味の解らないことを言っていたが要するに料理慣れしてないだけだろ。
 Naotoの言葉はいつも突拍子がない。まるでどこかから言葉を受け取ってそれに返したかのように、ま、まさかこいつも神の啓示を受けている!? とか言ってみても真面目な顔して真剣な、しかも理解不能な返事が帰ってくるのは解りきってるから言わない。そうやって隣にいるのも慣れてしまったし、そうしていつものように対応している方が楽だと知ってしまった。
 Naotoの言葉が会話にならず沈黙に戻ったタイミングで、俺も口を開く。
「だいぶ溶けてるけど、チョコに何か混ぜるか?」
 俺が言うと、Naotoは手を止めてその目を俺に向けた。よく出来た人形みたいな、違和感を感じるけどどう見ても人間にしか見えない目。
 何が好き? 混ぜるとしたら、かみつき君。
 俺を本当に映してるのか、ただそこにガラスが嵌められてるだけじゃないのか、いまいち解らないその目で俺の方面を見て、いつもの淡々とした口調でNaotoは言う。俺は別に、チョコに何か混ぜるとかしない。寧ろカレーにチョコを混ぜる。でもそれは晩御飯になっちまうし、今回は人に渡すチョコレート作りだ。美味しいけど、趣旨がなぁ。
 なんと、Naotoは来るバレンタインの為にチョコを準備したいと言ったんだ。あの、感情って何それどんなプログラムで動いてるの? と真顔で言い出すようなNaotoが。つまり今作ってるのはプレゼント用のバレンタインチョコ。
 チョコってのは媚薬効果もある、つまりチョコ作りは古より伝わりし原初の儀式が残ったものでもあるんだ。多分。それに俺が参加しないわけにもいかない。
 しかし、作ってる今も、チョコを用意したいと言い出した時も、Naotoの表情は全く変わらず淡々としてるってのが気に食わないけど。俺の方が意気込んでるのはどういうことだろう。まあ、こんな何考えてるのか理解不能な男なんだしよくある一般的な反応を期待する方がおかしいのかもしれないんだけどさ。
 この人形みたいな理解不能男がありえない奇跡起こして告白するんだから、出来る限り協力してやりたい、あわよくばからかって遊んでやりたいと思うのは自然なことだろう。それなのにからかい甲斐のない奴だ。
「俺は何入れてもいいと思うけど、Naotoが渡す相手が何が好きか、だろ? アーモンド入れると美味しいけど、アレルギーとか嫌いな奴とかいるし」
 俺が言うとNaotoは、そう、と一言だけ言った。それでも視線は俺に向いたままで、整った顔と黒々として吸い込まれるような目に、居心地が悪い。
 教えてくれない? 何に使うのか。
 Naotoが俺の手元を指差した。Naotoが湯煎してる間、俺は取ってきたフルーツを切っていた。夢の産物であるそれは俺の杞憂に反して、切ってもちゃんと身があるらしい。
 訊くならもっと早くに訊いたらいいのに、今気になったのかよ。
「どうせ余るし、ボウルに残ったチョコでチョコフォンデュもどきにしようかと」
 ふーん、美味しそうだね。なんてNaotoは心にも思っていなさそうに、いや、通常運転なんだけどなんの感情も感じさせないように言った。解らない。食べたいのか?
 丁度切っていたバナナを一切れ摘んで顔の前に持っていく。Naotoは迷いなくそれを口に入れた。ひな鳥かお前は。
「美味い?」
 俺が言うと、Naotoはもぐもぐしながら頷いた。おうそうかい、それは良かったよ。夢の中の物でも美味いって知れたからな。
「で、Naotoは何入れるんだ?」
 Naotoは無表情で口をもぐもぐさせて、味わったあと飲み込んで、そして何事もなかったみたいに言葉を放つ。
 しようか、チョコフォンデュ。
 お、おう。お前の言葉の意味が解んねぇよ。
「あの、Naoto? 食べるのはいいけど贈る分は? とりあえず一個分は取っとけよ」
 今全部食べるからいいよ。そんなことを言って、俺が切ったフルーツ類をまな板の上に集めて、隣にボウルを置いた。
 食べようチョコ、一緒に。
 人形の目で俺を見て言う。いや、お前これ誰かにプレゼントする予定じゃねーのかよ。そう言いかけて、言葉が被せられた。
 止めてしまっている子が多いね、さっき言おうとしたことだけど。
 全く脈絡のないように思える言葉で遮られてイラッとする。思わず舌打ちしそうになった俺を見たまま、それに構わず奴は言葉を進めた。
 諦め。成長を阻害。前に進まない。経験を拒絶。不快感を抱くんだ。理解出来ず尚且つ自身の意志と相反するものに。
「……は?」
 淡々と並べられた単語は、意味が解らない。そんな話してなかっただろ。というかまずお前チョコどうするんだよ、結局食べるのかよ。
 Naotoは首を振る。
 好奇心も知識欲も満たされるのは外部からの刺激に他ならないよ。
 言って、はぁとため息を吐いた。珍しい。Naotoが感情的なリアクションをしたところなんて殆ど記憶にないくらいなのに。いや、今までそんなことあったか? Naotoは更に言う。
 不愉快になるんだよ僕は、進もうとしないから先に、君が。
 不愉快という言葉通りにNaotoの語気がほんの少し荒くなる。俺とかなら怒ってないと言える範囲のちょっとした感情のブレだけど、Naotoからしたら今まで零だったものが一になった。そのことが異様で、想定外過ぎて、え? と聞き返したくなる。いつもと様子が違いすぎる。
 思わず開いた口にすぐさま何かが押し込まれた。甘い……チョコバナナ。
 ハッピーバレンタイン、一歩進んで欲しい、かみつき君には。それプレゼント、受け取ったね。検証したいんだ、遊びでいいよ。怖がらなくていい、進展を。
 一口サイズのバナナをどうするか迷うほんの少しの間に、Naotoはそう早口で捲し立てる。いやあの、待って。待ってNaoto。は?
「お前、バレンタインのチョコ渡すって言ってただろ? いいのかよそっちは! なんで俺に渡してんだよ!」
 Naotoの表情は変わらない。その変わらない表情で、最初からかみつき君に渡すつもりだったよ、なんて平気でのたまう。おいおい、待てよ。
「はぁ!?」
 わけが解らない。渡す相手に作り方教えてとか、一緒に作るとか、それは止めろよおかしいだろ! それに何で俺なんだよ! お前は勝手にほら、お前の夢の赤い子とかナースとか、身近な女の子いるのに。今まで通り何となく一緒にいるだけの友達未満な感じでいいだろ。なんでわざわざそういうことをするんだ。バレンタインに興味なんてなかったくせに、なんでいつも通り平穏なままでいられないんだよ。
 言葉にできない色々な怒りが込み上げてきて、何か言いたかったのに言葉が上手く出てこない。何か一つ言おうとしたら他の言葉も引っかかって、全部胸につっかえる。
 それなのにNaotoの奴はすらすらと、全く引っかかりもなく言葉にする。
 経験不足、人生も恋愛も。いけないよ、拒絶。良くないけど、甘いものばかりも。でも君はまだ学生なのに。だからね。
 言いながら、Naotoは指先に残っていたチョコをぺろりと舐め取った。唾液とチョコに濡れた指先を見ながら甘い、と少し眉を寄せて呟いて。そうしてじっと俺を見据えるその目に、ぞっとして、変に人間じみていて。人間だけど。人間なのに、人間じゃないみたいだったのに。
 奴は言った。
「恋愛ごっこ、してみようか」

 




※ハッピーバレンタインデー!

※甘甘を期待された方すみません。

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