小説(短編)
□誘惑【和×啓】
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「和希、それ‥なん‥なの?」
「大丈夫。大したものじゃない。時間がたてば、元に戻る。……啓太、辛いか?」
啓太は返事をすることなく、ぎゅっと強く瞳を閉じた。次第に涙がポロポロと溢れ出した。
俺は、どうしてあげればいいんだ‥?
涙を拭ってあげたくて啓太の頬に手を伸ばすけど、啓太は逃げるように体を反らした。
俺はなんだかそんな啓太を見るのも辛くて、啓太が嫌がるのはわかってたけど、力いっぱい抱きしめた。
「やっ、和希!」
「大丈夫。大丈夫だから」
「うっ‥、っ、だって…」
「こうして、ずっと側にいるから」
俺は柔らかく啓太を包むと、それに答えるように啓太は俺の袖を掴んだ。
「和希ぃ、体が‥熱いよ…」
「っ、」
俺はどうしたらいい?
泣き止まない子供をあやすように、俺は何度も震える啓太の体をさすった。
ただ、それしか出来なかった。他にも方法はあるけれど、でもこんな状態でなんて……
「和希ぃ‥」
縋るように啓太が俺の服を掴んでくる。そんな仕草も、うるんだ瞳も、擦れる吐息も、俺には全てがいとおしい…。
だけど……
「っ、はぁ…」
「啓太‥」
そっと体を離して顔を見つめる。
啓太は‥どうしたい?
無言でそう尋ねるように、俺は啓太を見つめた。
啓太はそれに耐え切れないのか、隠れるように俺の懐に顔を埋めた。
俺の腰にしがみつく啓太。ただ耐えているのか、求められているのかはわからなかったけど、俺は敢えて手を出さなかった。
そのまま床に寝そべって天井を仰ぐ。
啓太のしたいようにすればいい‥
そう思ったから。
俺はしばらく無防備に横たわっていた。
でも啓太は、俺にしがみ付く以外は、何もしてこなかった。
そしてそのまま時間だけが流れて行った。