小説(長編)

□側にいてC【丹羽編】
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俺はヒデの携帯に電話を掛けた。
拒否られるかとも思ったが、意外にもあっさりとそれは繋がった。


ピッ

「ヒデ、話がしたい。今からお前の部屋に行ってもいいか?」
『あぁ』


事身近に用件を伝えると、俺はヒデの部屋へと向かった。


◇◇◇

「入れ」
「お、おう」

俺は緊張の面持ちで室内に足を進め、ヒデのベッドに腰を下ろす。

顔を見た瞬間、口の端が少し腫れているのに気付く。
それを作ったのが自分だと認識すると後悔の気持ちだけがひどく残った。


「生徒会室、ある程度片付けてきた。その…悪かった。殴っちまって」
「良い。お互い様だ」

ヒデは椅子に手を掛けると、長い足を組んで俺に向かう。
少しでも話し合う意志があると見てとれるその態勢に、俺は少し安堵した。

ある程度時間が経ってお互い少し冷静になれている。
今なら、話せるだろうか。
お互いの事。

今後のこと…。



「ん…なぁ、ヒデ。これから俺達…」
「今まで通りだ」
「…!」

ヒデは俺の言葉を遮るようにそう言った。

「…………本当に、それでいいのか?」
「これ以上生徒会の仕事が進まなくなるのが目に見えているからな」

想定内の言葉だった。
そしてそれは、俺の理想でもある形…



「表面上は、な…」
「!」

そう言って立ち上がるとヒデは俺の体を跨ぐようにしてベッドに身を乗り出した。

「だが俺は無かったことにしたいわけじゃない」
「…!」

要は学園での表向きはきちんとするけど、他では何するかわからない。
ってことか…

俺を覗き込むヒデの目は真剣だった。

ただただ、俺の目を見つめてくる。
相変わらずの整ったその顔にドキリとする。
俺もただただ、ヒデの目を見つめ返した。


「…」
「…」

なんで、俺なんだ…?

こんなガタイの良いガサツな人間、良いところなんて、一つもないだろうに……


「なぁ、俺の何が良いわけ…?」
「………教えない」
「なんだソレ」
「気が向いたら教えてやる」
「そうかよ…」


好意を持たれることは嫌じゃない。
殴り合いの喧嘩になることもしょっちゅうだけど、
死ぬほど嫌いなわけでもない。

ただ、お前をもっと知りたいとは思う。
誤解してること、お互いにいっぱいある気がするんだ。

本当は、もっと言いたいこと
あるんじゃねぇかって………



「ヒデ。俺はもう逃げない」
「…」
「だから、お前も逃げるな」
「…」

真っ直ぐ見つめる。

「俺にもわかるように伝えろ。俺も、努力するから……」
「…」

言いたいこと、言える間柄になりたい。
そうすれば、きっとお互いに解り合えるハズなんだ。

もっと、素直になるべきなんだ。

俺も、

お前も、

啓太も…………




「明日、俺はまた啓太を説得しに行く」
「…!」
「表向きは、それで良いんだろ?」
「っ、」

啓太の名前を出した途端、ヒデの顔付きが一瞬変わった。
俺の胸元を掴んで、そのままベッドに
押し倒す。

それと同時に乱暴なキスで唇を覆われた。

「…っ、何す…!」
「今はプライベートだ。他のヤツの名前を出すな」
「…!」


嫉妬…

そこには初めて見せるヒデの顔があった。

そう、これは紛れもない嫉妬だ。

「ン…」
「っはぁ…」

コイツなりに、
変わり始めてる…………


ありのままを、さらけだす己を…

逃げず、

隠れず……




「っ、はぁ…わりぃ」

唇が解かれると、俺の口からは自然と謝罪の言葉が出た。
また知らないうちに、コイツを傷つけている自分がいる。

「分かればいい」


……………


………………………


俺は思わずきょとんとしてしまった。
時間差で笑いが込み上げてくる。

「ぷ…。ハハハッ…」
「…なんだ」
「いや、いい感じじゃん、ヒデ」

突然素直に振る舞うヒデの以前とのギャップに、俺はおかしくなってきた。

人間、変われるもんだな。

俺の心にも、少しずつ愛着が芽生えてくる。

「そういうお前なら好きになれる気がするぜ」
「…!」
「…なんてな」

俺は胸元を掴んだままのヒデの手をそっと包み込んだ。

「じゃあ、この話はおしまい。また明日、生徒会でな」
「このまま帰る気か…?」
「あぁ。俺は仲直りに来ただけだ」
「…」
「正直、会って話せて良かった。サンキューヒデ」
「…」

本当なら、もう何もかも見捨てられて、お前1人でどうにかしろと言われてもおかしくはなかった。
今まで通りと言われてどれほど俺が救われたか…。

お前は知る由もないんだろうけど…。


「おやすみ。」

まだ何か腑に落ちない顔のヒデがそこにはあったが、

俺は今日の疲れを癒すべく、

自分の部屋へと向かった。
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