小説(短編)
□あなただけを【中×啓】
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あなたを信じていいのかわからない俺は
何を信じていればいいんですか?
ただ、優しくされたいだけなのかもしれない
俺に優しさを下さい
…わかってます
到底叶わない夢だってことぐらい……
◇◇◇
バンッ!!
俺は勢い良く生徒会室を飛び出した。乱れた制服を直す暇もなく、ただひたすら走り続けた。途中、誰ともすれ違わなかったのが不幸中の幸いで、俺は校舎の外れにある木陰の所で崩れるように倒れた。
「っ、中嶋さんのバカっ!」
俺は生徒会室であったことを思い出すと、無性に腹が立ってその辺に生えてる雑草を乱暴に抜き取って投げつけた。
どうしてあの人はいつもあぁなんだ!俺はただ、
もっと中嶋さんの側にいたいだけ…
もっと、身近な存在になりたいと思っただけ、なのに……
事の前…
俺はいつものように授業を終えると、生徒会室を訪れていた。普段なら和希も一緒だけど、今日は手芸部の予定が忙しいとかで、そっちを優先して行ってしまった。王様はいるハズもなく、今日は中嶋さんと二人きりだった。
俺は中嶋さんに頼まれて書類をまとめる作業をしていると、中嶋さんの凛とした横顔が目に入り、ふと手を止めた。整った顔立ち、クールで大人びた雰囲気。やっぱりいつ見てもカッコ良いと思う。
そんなことを思いながらずっと見ていたら、俺の視線に気付いたのか中嶋さんが俺の方を振り向いた。
ヤバ‥
俺が仕事に上の空で中嶋さんから怒られるのは日常茶飯事で、また怒られるっと思って俺は慌てて仕事に戻った。
「啓太」
中嶋さんの低音で心地よい声が俺の耳に響く。俺はギクッとして突拍子な返事をした。
「あ、ははははい!」
「喉が渇いた。コーヒーを頼む」
「あ、わかりました。ブラックで良かったですか?」
「あぁ」
……ちょっと助かった。
さすがに中嶋さんと二人きりだと、少し緊張する。余計なことはいっさい話さない中嶋さんだから、時々沈黙が痛く感じることもある。いつもは和希が話題をふってくれたりするから、それに合わせてるだけで特に気に病むこともなかったんだけど。二人きりになってしまうと何を話していいのかわからない。かと言ってあまりベラベラ話しても、仕事の邪魔になるだろうし…。
「はい、どうぞ‥」
俺はインスタントのコーヒーをブラックでつくって中嶋さんに手渡した。