小説(短編)A
□惚れ薬【七→中×丹】
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「あ〜七条く〜ん!」
背後からマイペースな声が響いてきた。
誰が聞いても間違えることはない、あの独特の高い声の持ち主は…
「おや、海野先生」
生物教師の海野先生。
「はぁ、はぁ、ちょっと手伝って欲しいんだけど、今大丈夫かなぁ?」
どこから走って来たのか、海野は息を切らしながら七条にそう問いただした。
海野がこうして七条に自分の仕事の手伝いを依頼するのは特に珍しいことではない。
「別に構いませんよ」
「じゃあ、先に僕研究室に戻ってるから、あとで来て貰ってもいい?」
「わかりました」
「じゃあ、頼んだよ!」
用件だけ伝えると、何を慌てているのか、海野はまたパタパタと小走りにその場を離れていった。
そしてそのあと、七条も言われた通りに海野の研究室に足を運ぶのだが……
それが嵐の始まりになるということは…
誰も予測はしなかった…。
◇◇◇
‐会計室‐
「……」
七条は先程海野に手渡された薄紅色した液体の入った小さな小瓶をかざしながら眺めていた。
これは何かというと…
まぁ、一言で言ってしまえば『惚れ薬』と言われるものらしい。
その名も海野先生開発『惚れぼ〜れくん第2号☆』
第1号はどうした?という疑問はさておき…
先程の依頼は要するにこれの試供と成果のレポートを書いて欲しいというもの。
これだけの説明があれば効果も副作用もわかりきっているとは思うんだが…
とりあえず海野の説明によると、
服用の約5分後には症状が現れ始める。
効果がある人物は飲んだ直後に視界に入った人物。
効力は約8時間。
副作用としては個人差はあるが動悸・息切れ。
注意事項としては、先入観を与えてしまうと誤解や思い込みを招くので内密に服用すること。
らしい…
さて、これを一体誰に仕掛けましょうか……
七条は思い悩んでいた。
丁度その時…
ドンドン!
「おーい、入るぜ〜?」
「!」
生徒会長の丹羽が現れた。
丹羽会長…ですか。
その姿を確認すると、七条は細く口元を歪めた。
悪くないかもしれませんね……
そんな表情の変化に気付くことなく、丹羽はココに訪れてきた用件を告げる。