小説(短編)A

□告白【和→啓】
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ほんとはわかってた…


でも、知らないふりをしてきてしまった。


だって…じゃないと…




失う気がした…………








「啓太…」



いつもとは違う、苦しそうな声で名を呼ばれる。

そっと抱き締められた腕が…微かに震えている。


俺が…その手を振り払えるハズもない………






「啓太……」



もう一度静かに名前を呼ばれる。


唇が震える…
声を出そうとしても…
それはうまく言葉にはならなかった。




苦しいくらいにいとおしく抱き締められる。


目頭が、ふと熱くなる…

涙で…視界がぼやけた…




泣いちゃダメだ…


泣いちゃダメだ……



つらいのはきっと…

和希の方なのに…………





触れ合った体から、激しく感じる鼓動…

それは、もはやどちらのものなのかわからない…






「…和希」


やっとの思いで声が出た。

けど、まるでその言葉を遮るかのように…
和希の声が重なった…




重く…苦しく……


切なく…………………………









「啓太…」


聞いてはいけない気がした。

けど、俺は何もすることは出来ない。


不安が胸を押しつける。





「啓太、俺を…ふって…?」

「…!」





なんとなく想像していたけれど、その言葉の重さに頭の中が真っ白になる…



「ふって…?」




涙が……

溢れだして止まらなかった…






小さい頃からずっと見守ってくれていた人。

いつでも側にいてくれていた人。




でも、俺は違う人を好きになってしまった。




ずっとずっと想ってくれていたこと、気付いていた。



それでも……………



俺は、気付かぬふりして…
違う人を好きになってしまった…





俺は…

お前にそこまで好かれる価値なんて、何一つないのに………


それなのに………






「和希…」

「頼むから…」
「っ、」





どんな…気持ちで………

それを言うの…?


どんな想いでそれを言わせるの…?



言えない…

言えるわけ、ないじゃないか……………




それを言ったら…もう二度と会えなくなってしまいそうな気がする。

俺の元を離れて…



まるで無かったかのように…………





キレイに…さっぱりと…………
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