小説(短編)A
□お前の形【中×丹】
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11月18日…
夜。
夕飯を済ませたあと、俺はいつもの如くヒデの部屋に遊びに来ていた。
そこでひとつ、聞いておきたい事があった俺はヒデに直接問いかけた。
その結果。
質問になんの迷いもなく返ってきたヒデの答えが……
「お前でいい」
その一言。
………。
聞こえなかったわけじゃない。
この耳にその言葉はしっかりと届いていた。
だが俺は敢えて聞こえないふりをしてみせた。
「あ〜そうだなぁ〜…例えば……」
わかる人にはわかると思うが、これは一体なんの話か?というと、だ…。
明日はヒデの誕生日。
それだけ言えばもう言いたいことはわかるだろう。
そう、プレゼントに何か欲しいものはあるのかどうかと、
そう尋ねたその答えがそれだった。
プレゼント選びとはどうも苦手だ。
滝のような性格であれば、『何が欲しい?』と聞けば目を輝かせて10個でも20個でもその名をあげそうなものの…
ヒデ…となっては、さすがにそうもいかない。
長年一緒にて且つ恋人である俺でも、コイツの好きなものというのがよくわからない。(嫌いなもの、興味のないものならそこそこ把握できているが…)
そしてコイツの性格上、仮に選んだそれが当たりものであったとしても素直に喜んでくれる保証はどこにもない。
受け取って貰えればまだ良い方だろう。
だからこそ慎重に選んでおきたいところなんだが………。
「腕時計とかどうだ?それとも、寒くなってきたから防寒具とかがいいか?」
「聞こえなかったのか?お前でいいと言っている」
…………。
あー聞こえない。
何も聞こえない。
俺は再び何が良いか…と、頭を悩ませた。
ヒデはそんな俺の姿を目にすると、フッと口の端を少し持ち上げた。
「もういい…」
「!」
ベッドに腰掛けていた俺の側に来ると、肩を捕まれそのまま後ろに押し倒されてしまう。
ヒデは至近距離から俺の顔を覗き見ると、少し優しげな声でつぶやいた。
「なら言い方を変える。……哲、“お前が”いい」
!
ドクンッ…
ふいに心臓が高鳴る。
たった一文字…
“で”が“が”に変わった。
それだけなのに、その意味は大きく変化した。