小説(短編)A
□今日は朝まで【迅×和】
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本日はBL学園に縁の深いお偉いさんが集まる会合に俺は来ていた。
年に2回開催されるこの会合。
総勢150人くらいは集まる。
毎年の現状報告と、今後の方針を発表され、ビュッフェ形式の飲食を共にし、好き勝手おしゃべりを楽しむだけのパーティー。
お偉いさんと言えど、謎多き理事長の存在を知る人が全てではなく、俺の本当の姿を知るものは、ほんの一握りしかいない。
本当に信頼のおける一握りの人物。
理事長の正体はトップシークレット。
事情が事情なだけに、口が固い人が厳選されている。
そんな中に首を突っ込んで行くのは自殺行為で、普段は秘書達に代理をお願いし、行かせていたのだが……。
『たまには自分で足を運ばせ情報を得るのも大事なのでは?』と急かされ、今回はこうやって出向いてきた。
しかし、正体を明かす訳にもいかないので、もし己が何者か尋ねられたら、適当なこと言ってごまかすしかないのだが。
いや、疲れる…
酒の入ったおじ様達に絡まれては、げんなり。
俺の事情を知った人物に会えば『今日は嵐でも来ますか?』と嫌みを言われる始末。
こんなことなら本当に来なきゃ良かった。
俺は途中で気分を悪くしてトイレに逃げこむ。
もう今日はこのまま帰ってしまおうかと本気で考えた。
手を洗ってトイレから出ると、ふと見知った顔の人物に声をかけられる。
「今日は珍しい人がいるものだ」
「!」
それは保険医の松岡先生だった。
松岡先生は表向きは保険医だが、裏ではベル製薬の開発に携わっている、立派な研究医だ。
松岡先生…
迅さんは昔、俺の家庭教師をしてくれていた人でもあるので、俺の正体を知っている数少ない中の一人だ。
「迅さん…」
「だいぶ顔色がよくないね。大丈夫?」
気軽に話せる人と遭遇し、俺は心底ホッとした。
「えぇ、ちょっと酔いが回りました」
絡まれたと言えずに俺は酔ったと嘘をつく。
「そう…。調度この上のホテルでチェックインしてるんだけど…。少し部屋で休んで行く?」
「えっと…」
とても魅力的な誘いだった。
悪いかと思って一瞬ためらってはみたが、あの会場に戻るつもりは更々なく、正直休む場所が欲しかったので俺は返事をした。
「迷惑でなければ…」
「いいよ。じゃあ、ついてきて」
俺は言われるままに迅さんのあとを追った。