小説(短編)A
□さよならの前に【丹→西】
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ずっと気になっていた。
だからほんの気紛れだったとしても、誘いに乗ってくれた時は嬉しかった。
好きだった。
もうずっと、一目見た時からずっとだ…
今日は、俺にとって記念日と呼べるだろう。
大好きな人と初デート。
最初で最後の…
初デート。
◇◇◇
卒業を間近に迎えた俺は、色々思いに耽っていた。
なんとなくバイクで遠出をしてみたくなって、咄嗟にヘルメットを片手に寮の部屋を出た。
それが、夜8時の話。
「こんな時間にどこに行くんだ?」
一階のエントランスに降りてくると、突然声を掛けられた。
俺が大好きな声だった。
「おう、郁ちゃん!」
振り向けば、今日も一際美しいその容姿がそこには立っていた。
ホント、いつも思うが男にしておくのがもったいね〜…
そうつい口に出そうになったが、決まってしかめっ面をされるから、心のうちに留めておくことにした。
「ちょっとぶらりしてこようかと思ってよ。郁ちゃんも行くか?」
選択肢なんてないようなものだったが、敢えて聞いてみる。
即否定されるの覚悟だったのにも関わらず、
郁ちゃんは意外な答えを出した。
「そうだな、たまには付き合ってやる」
「!!」
驚いた。
聞き間違いかとこの耳を疑うほどに。
そしてなんとなく、気づいてしまった。
あぁ、最後なんだな、と…。
だとしたら、今の郁ちゃんの気が変わらぬよう、一刻も早く出掛けてしまいたい。
驚くほど俺は冷静だった。
普段ならこんな状況、浮かれ狂っていたに違いないんだろうが…
「ならもっと暖かい格好してこいよ。夜は冷えるぜ?」
「そうだな…。表で待っていろ、すぐ行く」
「あぁ…」
カウントダウンが迫っている…
今日は、
特別な夜…──