小説(長編)

□側にいてA【啓太編】
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好きで好きでどーしようもなくて

それでもあなたは
俺を見ていない
見ているのは違う人

俺じゃない、
違う人………

◇◇◇

『俺はお前にそういった感情はない。だからお前の気持ちに答えることは出来ない』


そう言ってフラれた。
10日くらい前の話。

フラれるのはわかっていた。でも自分の気持ちを押さえられなくて、本人に伝えた。
結果は案の定だったけど………


『でも俺は、中嶋さんのことが好きなんです!!』
『何をどう思うかは個人の自由だ。好きにしろ。だが俺の言ったことに変わりはない。俺が何を言いたいのか…わかるな?』


俺は眼中にないってことでしょ?
わかってますよ、そんなこと…
でも好きにしろと言ったのはあなたです。
だから側にいます。
例えあなたの好きな人がどんなに近くにいたって、両想いでないのなら、俺にだってチャンスはある。

「啓太!」



廊下を歩いていたら突然声を掛けられた。
それは聞き覚えのありすぎる声。俺の恋敵でもある人…。

「啓太。あっと…その……昨日は、その…悪かったな。変なもん見せちまって……」

王様…。

「いえ、俺の方こそすみません。突然あんなことしたりして…」
「いや、別にいいんだ…!ちょっと、…いやかなりビックリしたけどな」

王様の言う“変なもの”というのは、俺が昨日忘れ物を取りに生徒会室に戻った時に中嶋さんと王様のキスシーンを目撃してしまったことだ。
そして俺の言う“あんなこと”というのは、その現場を見て逃げ出した俺を追ってきた王様に、キスをしたこと…。

王様は中嶋さんの気持ちに全く気付いていない。
俺が中嶋さんを好きだってことは、どうやら薄々気付いているみたいだけど…。

「今日は、生徒会室に来るのか?」
「えぇ、行きますよ」
「そ、そうか…」

王様の唇の右端が赤く腫れている。俺は顔を合わせた時から気になっていたが、なんだか聞くのが恐くて聞けずにいた。

なんとなく分かる。
誰がやったのかなんて……

俺は視線を反らした。

「俺が行ったら、王様は迷惑ですか?」
「そ、そんなことねぇよ!啓太にはいろいろ手伝ってもらってるし、ホント助かってる!」

でも…
そう続きそうな語尾を俺は黙って待った。
しかし王様はそのあとは何も言わなかった。

「そ、それじゃあ、またな!」

そう言って王様は去って行った。
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