小説(長編)

□側にいて(おまけ)【啓太編】
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あのことがあってから、中嶋さんが優しくなった。
同情からくるものなのかわからないけど、俺の要望に応えてくれるようになった。
俺はそれに甘えて、今まで我慢していたことを、少しずつ吐き出すようになった。

側にいたい

もっと近い存在になりたい

甘えたい

もっといろんなことを話したい

認められたい

好きでいて良いって言って欲しい

キスしたい

一つになりたい

あの人より…可愛がられたい………


俺の欲望は尽きない。
それでも、前よりは遥かに願いが叶っている。
恐らく、最後の一つ以外は全部叶った。
きっかけはどうであれ、俺はとても満たされ始めている。

と、思っていた矢先のこと…

王様とのゴタゴタがあった。
過保護に庇う王様の言動に、正直嫌気が差した。

『いい加減にして下さい!』

その後の王様の悲痛の嘆きに、俺は言葉を失った。
正直、頭が真っ白になるくらいショックだった。

いつもの明るくて真っ直ぐで、一直線に突っ走るひた向きさは、どこにも無かった。

俺を抱き締める手は震えていた。

多分、俺以上に恐怖心を与えてしまっていたのかもしれない。
そこまでそうさせたのは、彼の優しさからくるもの以外何もない。

俺は、自分の言ったことにひどく後悔した。
けど、どんなに悔いたって、放った言葉の撤回は出来はしない。
俺は王様を傷つけた。

彼らしからぬ僻みが、それを確信させた。

自分で撒いた種のクセに、後悔と、罪悪感で涙が溢れてきた。

嫌だ…

怒らないで……

嫌いにならないで……



傷つかないで………



謝っても謝りきれない
不安と喪失感の恐怖が俺を包む。

突き放される。

ダメ、ちゃんとわかり合いたいのに…

ちゃんと伝えたいのに…!


強制的に、シャットダウンされる。


切り離された現実に、俺は悔しさに泣くことしかできなかった。


◇◇◇

中嶋さんが来たことで、俺は王様に部屋から追い出された。

事情を知らない中嶋さんは困り果てていたけれど、とりあえず俺を自分の部屋に招き入れてくれた。

「っ、ぅ…うぅ…」
「一体何があった」
「うあぁぁ…!!」
「……」

俺はひたすら泣いた。
本当は中嶋さんすがりたかったけど、王様に言われたひと言がそれを制した。

『ヒデに慰めて貰えばいい…』

悔しかった…

なんでかは、わからないけど……


「………とりあえず、落ち着いたら訳は話せよ」
「っ、ぅ…う…。俺、自分の部屋にっ、帰ります」
「やめておけ、余計に暗くなるだけだぞ。お前まで暴走してどうする。今はここにいろ」
「〜〜っ、うっ、うっ」

中嶋さんは、俺が泣き止むまで、ただただ側にいてくれた。





「落ち着いたか?」
「はい…」

泣き過ぎて頭が痛い。
まだ余韻は残るけど、話が出来るくらいには落ち着いた。
けど、思い出すとまたすぐに声が上ずってしまう。

「お前らでも喧嘩するんだな。何か丹羽のヤツにひどいこと言われたか?」
「俺が悪いんです…。俺がひどいこと言ったんです。追い出されても仕方ないくらい…ひどいこと…」
「あいつも今は冷静になれないんだ。大目に見てやれ」
「分かってます…。全て俺のためにしてくれてるって…。でも、俺だって…言いたいことたくさんあって…。お互いに何か分かり合えたらって、思ったから…行ったのに…。王様を傷つけただけだった…」
「それはお互い様だろ」
「ごめんなさい。ごめんなさい…。どうしよう俺、絶対嫌われた…」
「…」

恐怖心で手が震える。

「そんなくらいでアイツはお前を嫌ったりしない。きっと今頃はアイツも後悔している」

怖い、怖い、怖い…

人を傷つけることが、こんなに怖いなんて…


「落ち着け」

中嶋さんが咄嗟に俺の手を握る。
けど、俺は反射的にその手を振り払ってしまった。

「…」

あ…

嫌だ…

中嶋さんにまで嫌われたら、俺…

「ごめんな…さい…。ごめんなさい」
「…」

中嶋さんは、俺の頭を片腕で引き寄せて抱き寄せてくれる。

俺は戸惑う。

「中嶋さん…。っ、優しくしないで…」
「…」

俺はまた大粒の涙が溢れてくる。

嘘…

本当は甘えたい。

逃げたい。

どうしていいのかわからない。



「アイツは俺もお前も手放す気はないと言っていた。だから、大丈夫だ」
「っ、つ…」
「少し離れてお互い頭冷やせば、また以前のように戻れる。問題ない。そう思っていればいい」
「…」

俺は黙って中嶋さんの言葉を聞いていた。

暗示のように、
その声は静かに俺の心に染み渡って行った。
 

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