小説(長編)
□蜂蜜と猛毒B【和×啓前提の中×和】
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「和希は、それでいいの?」
「いいよ」
「っ、」
俺は即答した。
啓太はショックを隠せない。
「嘘だ…!俺は…嫌だ。だって、笑ってないだろ?こんなの…良い訳がない…」
涙で声が裏返る。
ずっと窓の外を眺めていた俺だったが、窓に反射して啓太の姿が写ってしまっていることに気がつくと、仕方なく視線を壁の方へと向けた。
「……なんで泣くの」
「……っ、泣いて悪いかよ!好きだったヤツのこと想って、心配して、頭の中グルグルしてさ!素直にもなれなくて…。自分に腹を立てて!それでも、やっぱり、俺…」
「……」
「和希は笑ってなきゃ嫌だよ…」
「……」
俺は何も反応しない。
そんなこと言われても困る。
俺はもう…
もう………………
そんな時、ふいに腕を捕まれた。
俺は自分でも驚くくらいに過剰反応する。
「触るな!!」
「!」
振り向き様に啓太を睨みつける。
久しぶりにその顔を見て、俺は後悔の気持ちでいっぱいになった。
また、視線を壁に戻す。
「触るな。俺に、触るな…」
絞り出すような声でそう呟く。
しかし啓太は、その手を離さなかった。
「っ、ごめん。出来ない…」
そう言って俺の体を抱き締める。
「!!」
「もう、引かない!」
「離せっ!」
俺は大声を上げた。
自分でも驚くくらい、大きな声だった。
手を振りほどこうと必死になってみるも、啓太は決して俺から離れはしなかった。
「嫌だ!もう、引かない!俺、自分の気持ちに気づいたから!もぅ、迷わない!!」
「っ、嫌だっ!」
「和希!」
「離せよ!!」
「!これ…」
身動きした際に袖口がずれて、啓太は俺の手首についた紅い痕跡を見つける。
ベルトで縛られてできた、あの時の跡…
「!」
俺は袖を引っ張り跡を隠す。
「っ、和希…中嶋さんに、何されてるの?」
「…」
「もしかして…脅されてる…?」
「…」
もう、
勘弁してくれ…………
本気でそう思った。
俺は逃げ出したくなった。
もう、何も聞きたくない。
何も話したくない。
耳を塞ぎたい。
追い出してしまいたい。
過去を引きずり戻したい。
何もなかったことにしたい…―――――
「和希。俺は何も言ってくれなかったこと、悲しかったよ」
「…」
「好きな人になら尚更。言いたくないことだってあるだろうけど、それでも…やっぱり俺は言って欲しかった。和希が一人で苦しんでいると思ったら、俺はやっぱり悲しいよ…」
触れた啓太の体が熱い。
俺はもう抵抗するのも疲れてしまった。
静かに語る啓太の言葉をぼんやりと聞いていた。