[小説]刀神─カタナガミ─
□【三】羅刹の系譜
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青灰色のセーラーカラーと、
ソレを縁取る二本の白線。
淡いグレイのワンピースに、
お揃いのリボンタイを着け、
学校指定の紺のボレロを羽織れば──
漸く、朝の身仕度が終わる。
久し振りに袖を通した制服は、
生地のアチコチに、真新しい固さを残していた。
コレを身に着けたのは、
入学式以来だ。
面映ゆい違和感を覚えながら、
自室を出て、階下の居間に向かう。
すると…
先に食卓に着いていた兄の凱が、目をしばたかせてコチラを見上げた。
「…那由…多…?」
「お早う、兄貴。」
「あ、あぁ…お早う。」
一身に注がれる視線が痛い。
問い掛けたくてウズウズしてるのが、無言の内に伝わって来る。
「何だか…久し振りに見るな、お前のそんな格好──どうしたんだ、急に?」
「別に…唯の気分転換だよ。
気にしないで。」
そう言うと──
兄貴は、
少し訝しげに双眸を眇めた。
「脩生と何かあったのか?」
口の端に登った名前に、
ギクリと全身が強張った。
胸がザワつき、鼓動が早まる。
ふと。
昨日のキスの感触が、唇に蘇った。
──言える筈がない。
脩生のモノになった…なんて。
「ごめん。朝食いらない。」
「いらない?
体調でも悪いのか?」
「うん、少しね。
でも平気だから。」
「那由多…」
兄貴は、
未だ何か言いたげだったが…
ソレを振り切るように、
鞄を肩に担いで、居間を後にした。
「待ちなさい、那由──」
「行ってきます。」
「那由多!」
後ろ手に扉を閉めて、
追い掛けて来る声を遮る。
ごめん──兄貴。
今は何も話したくないんだ。
詫びる言葉を噛み殺して、
逃れる様に家を出た。